20代後半から30代前半、辻邦生(1925〜1999)の小説に入れこみました。

織田信長の生涯を、宣教師の視点から描いた「安土往還記」(筑摩書房600円)。もうこのストイックな文体で描かれる信長像にしびれましたね。

「人間は、温情を与えることで下劣なものに成り下がることがあるのだ。」下劣な存在にならないことを己にも、他者にも激しく求め、ひたすら極みに達しようとする、恐ろしく孤独な存在。明智がなぜ謀反を起こしたのか様々な説がありますが、このラストには、なるほどなぁ〜あの眼に耐えられなかったのかと納得しました。

 

その後、この人の長編歴史小説を片っ端から読破。「背教者ユリアヌス」(中央公論社1500円)全2段720ページ、「西行花伝」(1995年新潮社1000円)520ページ、「春の載冠」(1977年新潮社1600円)上下巻全900ページ2段組み、と今なら絶対読めません。歴史に翻弄されながら、悲劇的終末へ突っ走る男達、女達の人生。もうそれは真面目な小説です。文学の絶対性を信じて、人のあるべき姿を求める理想論です。古くさいかもしれませんね。現に古本市場では人気ありません。でも、理想論を真面目に語ることが大人の仕事ではないでしょうか?

昨今の原発再稼働についての意見の中に、「原発廃止は理想論。理想だけでは生活できない」とか「きれい事じゃ、無理」とかという台詞を見かけます。それは、全く間違ってます。そういう、あるべき未来への理想を真面目に語ることが第一歩のはず。理想論をせせら笑うような考え方では、いつまでもこの国はお子様の国ですね。

そういう意味で、辻邦生の読書経験は、大事なことでした。

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