矢吹申彦(1944〜)の描くイラストに吸い込まれた時期がありました。

はっぴえんどのベストアルバム「CITY 」のLPをレコードショップで手に取った時、高速道路の後方に広がる青い雲に引き込まれました。なんて、奇麗な青なんだろう!

その時は、このイラストレータの名前を知りませんでした。時は前後しますが、69年の創刊2号から、76年まで、彼は音楽雑誌「ニューミュージック・マガジン」の表紙のアートデレクションを担当していました。ミュージシャンの顔の表情を上手く捉えたイラストは、なんだかその音楽を聴いた気分にさせてくれました。

また時が前後しますが、伊丹十三の著書「女たちよ!男たちよ!子供たちよ!」を本屋で手に取った時、棒高跳びに興じている男性の向こうに広がる青空に、やはり魅入られました。開放感にあふれたブックデザインは、かっこいいと単純に思いました。今、手元にある「矢吹申彦風景図鑑」(美術出版社2000円)には、この本の著者、伊丹十三がこんな文章を寄せています。

私が矢吹申彦の世界に惹かれたのは、おそらくは、彼の雲に対する変愛ゆえではなかったかと思う。かつて、私もまた雲に対する変愛者であった。

そして、矢吹の雲の本質をこう書いています

矢吹申彦の雲が気象学的な雲とは無縁の、孤独や飛行の記号としての雲であることは私には一目瞭然であった。

73年から、彼は伊勢丹のポスターデザインを手がける。「帽子のUFO」と題された作品の空中を浮遊する帽子の後ろに浮かぶ雲も、伊丹の言葉を借りるなら「飛行の記号」でした。

児童文学者の今江祥智は、この本の中で、彼の絵本「ぼくの絵日記」を取り上げて、「文章のセンチメンタルな部分とはうらはらに、絵はどこにもない時間と空間と存在を描いて、不気味だ。」と評しています。そして、描かれている人物、動物、風景が「ちゃんと描かれてあるのに、見ていると、ゆっくり溶け始め、光の中に消えてしまう」。そして、再度ページをめくると、やはりそこに存在しているよいう不思議さを体感すると書いています。「サウンド・オブ・サイレンス」の世界です。

この孤独で、静謐で、しかし飛翔への予感を内在する感じは、どっかで体験したなぁ〜と思っていたら、そうだ宮崎の長編アニメに出て来る青空がそうでした。どこかで、同じ世界を共有しているのかもわかりませんね。

 

26日(金)の安藤誠さんの「安藤塾」は店舗閉店後8時すぎに開始いたします。なお、満席になりましたので当日の分はございません。

 

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