村上春樹だったと思いますが、アメリカ西部を横断していた時、どこのFM局からもカントリーしか聴こえてこないことに、気が狂いそうになったと書いていました。

アメリカといえば、NY、LAのような大都会から世界に発信されるロック、ジャズ、ブラックミュージックが音楽シーンを代表していると思いがちですが、カントリーがすべてというエリアが、実はアメリカなのかもしれません。

そんなアメリカを舞台にした「ネブラスカ」は、心染み入る作品でした。頑固な父親が、詐欺に近い賞金当選くじを信じて、モンタナから同行を嫌がる息子と、中西部の州ネブラスカまで旅するお話です。どんより曇った空に覆われるハイウェイ、荒涼とした風景、荒廃するリトルタウンと美しくないアメリカンランドスケープのオンパレードです。これを監督アレクサンダー・ペインは全編白黒で撮影。まるで頑固な父親の心象風景のようです。

父親を演じるのはブルース・ダーン。1978年に封切られた「望郷」という映画で、エリート軍人ながらベトナム戦争で精神のバランスを崩し、軍服を脱ぎ捨てて入水自殺をする役柄で強烈な印象を与えた俳優です。最後にスクリーンでお見かけしたのはいつだったかしら?お懐かしい!ボロボロの爺さん役ですが、泣かせます。

前半、二人は会話も少なく、お互い理解できずに対立しますが、ロードムービーのお約束で、だんだんと距離が縮まってきます。それを象徴するかのように、墓地の上の真っ青(白黒ですが)な空に浮かぶ、ふわぁ〜と浮かぶ雲。その穏やかな雲が、疎遠だった二人の心境の変化を表現してるみたいで、上手い演出です。

登場人物は、主役の爺ちゃんに、口の悪い妻(もちろん婆ちゃん、アカデミー賞助演女優賞にノミネート)そしてかつての仕事仲間の爺ちゃん、ガールフレンドだった婆ちゃんと、じいさんばあさんばっかです。若い奴はおらんのかぁ!と怒鳴りたくなる程、昨今のアメリカ映画ではレアな作品です。

しかし、白黒フィルムに焼き付けられた彼らの皺のひとつひとつに、「人にドラマあり」という厚みがあります。ピータ・ポグタノビッチが白黒で撮った72年の「ラストショー」、74年の「ペーパームーン」を思いだします。アメリカを描きながら人生の普遍的な姿を描くために敢えて白黒で作った映画です。映画館の大きな画面で味わってもらいたい作品でした。

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