たった一人の出版社「夏葉社」の島田潤一郎さんが、初めて店に来られたのは2年程前です。静かな佇まいと、控えめな立ち居振る舞い。

この人も瀬戸際まで行った人か?

と思ったのは、レコード店勤務時代に、知己を得た二人のロッカー兼レーベル代表がそうだったからです。礼儀正しく、もの静かな方がライブでは豹変。あまりの落差に仰天しましたが、その半生を聞いてさらに仰天。死ぬか生きるかの瀬戸際までいった人の凄みに圧倒されたことがありました。

さて、島田さんが、晶文社から「あしたから出版社」という本を出されました。その前半部分で、出版社を立ち上げるまでの日々を赤赤裸々に書かれています。

「従兄が死ぬんだって。瞳孔が開いて、もうダメなんだって」

最愛の従兄を失った日から始まった希望の見えない日々。葛藤、後悔、諸々の負のスパイラル。明日からの生き方を見失い、仕事も続かなくなる。不器用にしか生きられず、転職もままならない。その時代、

「ぼくは、そのころ可愛がっていた野良猫のところへ行き、猫と一時間ばかり遊んだ。冬の夜だった。人生が真っ暗だというのは、こういうことなどだ、と思った。」

やがて、彼は本を出す仕事に希望を見出し、編集の仕事も、出版社勤めの経験も全くないのに、単独で出版社を立ち上げます。それが「夏葉社」で、創業以来、今日まで一人です。営業には「青春18切符」を駆使して全国を回られます。

この本はつらい人生から明るい未来への活路を切り開いたサクセスストーリーではありません。ただ、ひたすら仕事に純粋になれる素晴らしさを教えてくれる本です。本を慈しむ、ただそれだけです。そして、たった一人だと思っていたのに、いつの間にか彼を支える書店員や出版関係の人がいたことを知ります。だから夏葉社の本は、どれも眺めているだけで、触れるだけで島田さんの愛情が溢れ、彼を支える多くの仲間たちを裏切らないように一生懸命なのです。よかったら一度、店内で触って、嗅いで、読んでみてください。(店内に「夏葉社コーナー」があります)

島田さんの本は新刊書なので、残念ながら当店ではお取り扱いしておりません。この本は書店員も、そうでない人も読むべき本です。そんな本を平積みしていない書店はないとは思いますので、新刊書店でお買い求め下さい。「読めば元気になります」。その通りの本です。

島田さん、いつまでも応援させていただきますよ!

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