神戸の大学で哲学を教えていた内田先生の本を初めて読んだのは、「寝ながら学べる構造主義」でした。いや、もう抱腹絶倒の哲学入門書でした。フランス現代思想の、特にレブィナスの研究者ですが、難解極まる構造主義の大御所を一刀両断する手腕は、お見事でした。その後、専門の本以外にも多くの本を書かれていて、面白そうなものは読んできました。

タイトルで買ってしまったのが、「健全な肉体に狂気は宿る」(角川新書300円)と「態度が悪くてすみません」(角川新書300円)、そして「ひとりで生きられないのも芸のうち」(文春文庫400円)」です。まだ、新刊書店に勤務していた頃です。毎日毎日「自分探し」だとか「癒し」だとか、「自分を高める」とかいうタイトルの本を見ては、気分悪くなり、吐き気を催す日々でしたが、内田先生の本は、よく効く胃薬みたいのものでした。書店の人文担当者に、「自分探し」の本置くなら、内田先生の本だ!と強引に割り込んだものです。

もちろん、研究者の書く本ですから。そうへらへらと笑って読み飛ばせる本ではないのですが、論理的に構築された文章を、頭に入れて行く作業の快感を体験できます。ちょっと、頭が疲れてたなぁ〜と思うと、けっこう面白い文章に出くわします。

例えば、精神科医師の「春日武彦」との対論を納めた「健全な肉体に狂気は宿る」の中で、「端っこにいれば、いつでも逃げ出せる」という章では、

「日本社会の組織というのは身内に対してすごく甘いですからね。甘い汁はちゃんと吸わせていただいて、組織がバラけそうになったら『三十六計逃げるが勝ち』と逃げる」とか。

いいですね。内田先生は、音楽や映画にも造詣が深くて、「態度が悪くてすみません」では「大瀧詠一の系譜学」と称して、彼の音楽理論が構造主義系譜学の方法の基づいている、と何やら難しい言葉を使って説明していますが、成る程と唸らせます。

内田先生は、古典芸能もお好きで、ご自身もお謡いをされています。そして観世流家元の観世清和さんとの対話を収録した「能はこんなに面白い」(小学館900円)も出版されています。これは、古典芸能に興味のある方なら、お薦めです。

内田先生の本は、文庫棚コーナーの上にまとめて設置しています。

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