小説、映画、音楽好きにとってはN.Yは憧れの、いや聖地といってもいい街です。植草甚一のN.Y滞在記を読んでは、この街角をそぞろ歩きをしている自分を空想してみたりしたものです。

N.Yにあるコニーアイランドという遊園地を舞台にしたノーマン・ロステンの「コニーアイランド物語」(晶文社・初版500円)も、この街への憧れを満たしてくれた小説です。ロステンは、サリンジャーと同世代の、やはりユダヤ系の詩人です。初めて手掛けたこの小説は、ホットドッグ発祥の場所コニーアイランドで、フツーに生きる人達の、フツーの生活を淡々と描いたお話です。

眩しい夏が過ぎ去り、主人公の「ぼく」のまわりにも秋が近づいてきます。「家からはーまわりの家もみなー夏らしいあけっぴろげなようすがなくなった。」そして「キャンディ・ストライブの日よけがあげられ、取り外された。」情景が目に浮かぶようです。サリンジャーでもなく、スコットフィツジェラルドでもなく、淡々と進むこの小説が、N.Yでした。

 

N.Yといえば、ビリー・ジョエルの名曲「New York State of Mind」が有名ですが、この曲、沢山あるカバー曲はどれも失敗しています。なんか歌の上手な人のカラオケを聴いている気分になってくる中、一人、オランダの歌姫アン・バートンはカバー化に成功しています。日本人シンガーが歌うと、この街への憧れやら、夢やらを過剰に歌い込み過ぎるようですが、彼女は一歩下がったところで、見つめているので、彼女なりのNew York の情景が見事に表現されています。この曲の入った「New York State of Mind」(1900円)では、ポール・サイモンの曲もカバーしていて、これまたN.Y的な雰囲気が溢れています。