これ、石川梵の著書「フリスビー犬、被災地をゆく」(飛鳥新社950円)の最初の文章です。

石川さんは、辺境の民を見つめた作品で知られているフォトジャーナリストで、当店でも「鯨人」(集英社新書400円)、「時の海、人の大地」(売切中・近日再入荷)等が人気です。彼が、愛犬十兵衛を連れて東日本大震災の被災地を回った記録が「フリスビー犬、被災地をゆく」。なんで、犬を連れて?と思いの方もおありでしょう。最初から、彼も連れていったワケではありません。

震災直後から現地に入り、実情をカメラに収めてきました。(その時の記録写真「THE DAY AFTER」も近日入荷します。)取材から帰宅して、久々に、十兵衛と三度の飯より好きなフリスピーで遊んでいるうちに、ふと思います。

「苦難の日々が続く被災地。ひょっとしたら、犬にしかできないことが、あるかもしれない」と。

そして東北へ再取材に旅立つ朝、十兵衛を連れていきます。投げられたフリスビーをジャンプして取る犬に、被災地の子どもたちは大喜び。震災以後、ふさぎ込んでいた老人が、ふと投げたフリスビーを、楽しそうに取る十兵衛を見て、笑います。セラピードッグの誕生です。

各地で愛嬌を振りまき、みんなに笑顔を与える十兵衛。でも、この本はそんな心洗われる写真ばかりではありません。横転した機関車の前に佇む十兵衛のぞっとするような写真や、廃墟と化した海岸線を歩く十兵衛を捉えた痛々しいものも収録されています。どん底に落ちた人々に、犬一匹できることはたかがしれています。しかし、無垢な十兵衛の与える喜びは計り知れないものがあるのかもしれません。

素敵な写真があります。気仙沼港で、朝もやの中、湾を見つめる凛とした十兵衛を捉えた作品です。できることをやる、という石川さんの決意を十兵衛が表現しているかのようです。

後半、映画監督の山田洋次さんが登場します。瓦礫にたなびく黄色いハンカチ。そして十兵衛。この辺りに登場する写真は、文章がなくても力を発揮して、見るものに迫ってきます。「時の海、人の大地」で、文明からはるか離れた大地や、大海原で生きる人びとの力強い表情を捉えた石川さんの真骨頂を見る思いです。