奈良原一高の写真集「王国ー沈黙の薗・壁の中ー」(朝日ソノラマ写真選書・初版・著者サイン入り)を、入手しました。

奈良原は1931年、福岡生まれの写真家です。67年発表の『ヨーロッパ・静止した時間』で、日本写真批評家協会作家賞他を受賞して以来、数々の賞を受賞しています。

その中でも、この「王国」は撮影対象の特異さで注目された作品です。作品の前半は北海道のカソリック修道院で修行する僧を撮影した「沈黙の薗」、後半は和歌山の婦人刑務所の受刑者を集めた「壁の中」です。

いわば、日常世界から遠く離れた世界の中に生きる人びとの一瞬を捉えた作品集です。不思議な静寂に満ちた作品が並んでいます。「黙々と生きる」とは、こういうことなのかもしれません。厳格に定められた通りの日々を捉えた写真の一方で、野良仕事に向かう僧侶の前で、草を食べている羊を収めた作品には、温もりも溢れています。

後半の女子刑務所の中を撮影した作品群は、受刑者の悲しみとか、怒り、憎しみといった複雑に絡み合う感情を排して、やはり不思議な静謐感に溢れています。刑務所内でパーマをかけている受刑者の作品には、どこかユーモアさえ漂っています。撮影はどちらも1958年に行われていますので、古びた世界ではありますが、強靭な力を保持しています。作者は、こう書いています

「事実は観念をとびこえる肉体を持っている。そのような僕にとって、うつし出された写真の世界そのものは、遂には外にある現実と内にある心の領域とが出会ってひとつとなった光景のようにさえ思えたのだ。」

カメラという現実を映し出すものが、見事に作者の心象風景を描いた傑作です。この本は、1971年に中央公論社から出た「王国」を再編集した改訂版ですが、貴重です。お値段は8000円です。

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