2002年の木山捷平文学賞を受賞した平出隆の「猫の客」は、どうも、馴染めない作品でした。幻戯書房から出た「ウィリアム・ブレイクのバット」(1800円絶版)、短い散文を集めたものですが、最近これを読んで、あれ?この人こんなに感じ良かったっけ?と思いました。

例えば「海を背に」

真冬の北海道。宗谷岬近くを走行している時の光景です。

「道の端には高い積雪の眺めがつづいていだが、不意にそこに、凍えたような金網が二メートルほど突き出した。形状から、とっさにバックネットと分かった。海辺の、それも流氷群のかたわらの野球場だった。雪の下の見えないひろがりに、瞬間のこと、胸を衝かれた。さいはてのボールパークだ、と」

なんか、映画のワンカットみたいに、その光景が目前に現われてくるようです。この話のオチも面白くて、対馬列島に位置する海栗島。目の前は朝鮮半島。そして島にあるのは航空自衛隊のレーダー基地。そこを訪れた作家は意外なものを見つけます。

「小さな野球場がひろがっていたからである。一塁線のこちら以外は、すべて海がとりまいている。それも国境の海である」

大きな放物線を描いてセンター方向に飛んで行った打球は国境間近の青い海に落下する、なんて想像してしまいます。

こういう短い話のぎっしり詰まった一冊で、どことなくクラフト・エヴィング商會の本に手触りが似ています。

ところで、平出隆は90年代後半から多摩美術大学で教鞭を取っており、今も在職中です。2006年に、思想家中沢新一を学内に招き入れ、芸術人類学研究所を創設して新たな学問を創りだしています。

中沢新一の本は、まるで歯が立たないというか、面白くないと言うべきか、そんな経験をしたことがありますが、一冊だけ、非常に納得して、方々に線を入れたり、紙を挟んだりした読書体験をしました。

それが「哲学の東北」(青土社950円・絶版)です。東北の生活と思想、芸術を足がかりにして、宮沢賢治を語っていきます。様々な賢治論を読みましたが、東北の持つ力を絡めて賢治の思想に迫ったものです。

再度、読み直そうと思い、パラパラめくっていると、あれ、こんなに難しかった?アホになったんかいな?と、平出隆の本との出会いとは全く逆の印象を持ってしまいました。

★レティシア書房 『一箱古本市』のお知らせ

8月11日(火)〜23日(日)店内にて開催いたします。(17日は定休日)

今年も賑やかに、27店舗参加していただきます。

初参加のお店もあります!乞うご期待!!