西村雅子編集による「”ひとり出版社”という働き方」(河出書房1300円)は、独立系出版社で苦労する出版人のドキュメンタリーなのですが、それ以上に働くということを根本的に見つめた素晴らしい一冊です。

ここには、当店もお世話になっている、タバブックス、夏葉社、サウダージブックス、ミシマ社、土曜社等の十数社が登場します。本の製作から販売、管理まで一人でやるなんて無謀といえば、無謀なんですが、皆さん、いや〜儲かりませんなどと言いながら、喜々として仕事に取り組んでおられます。

最初に登場する「小さい書房」代表の安永則子さんは、育児しながらフットワーク軽く好きな本を出されているから驚きです。夫のお金を使わずに、自分の貯金で事業を軌道に乗せるのに「三年では短すぎるし、十年では長過ぎる」だから5年を目処にがんばっておられます。

東京から京都に移ってきたミシマ社は、正確に言えば「ひとり出版社」ではありません。社員数名の小さな出版社です。本の大事な役割は、世の「小さな声」を拾うこと、と社長の三島邦弘さんは言い切ります。だから、大企業と同じ方法でやっても無駄、面白い人材を集めて、新しい企画を出していくことが役目。最近新たに刊行された「コーヒーと一冊」シリーズは、今までにない切り口の本ばかりで、松樟太郎「声に出して読みづらいロシア人」は当店でも人気の一冊です。

さて、小豆島から発信する「サウダージブックス」の浅野卓夫さんの経歴はちょっと変わっています。元々、文化人類学の研究者を志し、人類学者の山口昌男の書生だった方です。それが、彼が出会った三人の古老との体験(これが面白い)を通して、小さな島で出版社を立ち上げる道へと向かっていきます。プロレタリア文学者の黒島伝治作品を集めた「瀬戸内海のスケッチ」(2160円)や、被爆して、戦後自ら命を断った作家原民喜の短篇小説集「幼年画」(1728円)といった、あまり目立たない作家に注目したり、「焚火かこんで、ごはんかこんで」(1620円)、「感謝からはじまる漢方の教え」(1512円)と暮しに密着した本など、地方発の出版社としての理念を持った作品を出しています。

新刊書店に勤めていた頃、出版社の営業マンから「もっと、積んでくださいよ、いつでも返本していいですから」とはなから、いつでも返本してねという”ぬる〜い”営業が嫌でたまりませんでした。でも、これらの独立系出版社はそうではありません。真剣に、情熱をもって製作した本を、売れる数量を吟味して販売する。それこそ、真っ当な販売だと思います。

レティシア書房が続く限り、この本に載っているいないにかかわらず、一人、二人でがんばっている出版社は応援します!