梨木香歩の最新作「岸辺のヤ〜ビ」(福音館1200円)は、明らかにファンタジーのスタイルの児童文学です。

だからといって、大人が読んで面白くないかと言えば、全くそんなことはありません。前作「丹生都比売 」もファンタジー小説の大人版でしたし、純文学の看板をかかげている「海うそ」にしても、主人公が島の中を彷徨い、何かに遭遇する辺り、ファンタジーの香りが漂っていました。

舞台は、イギリス(実際にイギリスとは明言されていませんが)の田舎の豊かな自然の広がる森です。その森近くの学校に勤務する女性教師が、ボートで沼地に出た時のことです。そこで彼女は、カヤネズミ程の大きささの直立二足歩行する小動物に出逢います。

「モグラでも、ネズミでもない。何よりもやはり、一番の特徴は、顔に表情があったことでしょう。」と彼女は思います。そして、目と目があった時、こう感じています

「おどろきと、ちょっとこまったような、それでいてたじろくことのない、いいかえれば、今までの人生を、お日さまの下ではたっぷり汗をかき、月明かりの下ではたっぷりさまざまなことを考えてすごしてきたような、そんな男の子の顔をしていました。」

彼は言葉を話しました。こうして物語は始まります。彼の名はヤービ。この豊かな森に一族で住んでいます。彼女は、ヤービからこの森で行きている多くの種族のことを知ります。

多彩な登場人物を登場させながら、豊かな物語を展開してゆくところは、作者の真骨頂です。読者はヤービに導かれるように緑豊かな森での彼等の生活を知っていきます。メアリー・ノートンの「床下の小人たち」(岩波書店 1100円)の描く世界に近いものがあります。

しかし、このシリーズ1作目のラストは決して、明るい未来ばかりではありません。大きい人達(つまり私たち人間のこと)の自然破壊の影響で、彼等の環境に異変が起きているのです。

「若いミツバチのなかには、巣を出て行ったままもどってこないものがあります。ぜんぶではありませんが、巣の近くまで還ってきたミツバチたちも、まるで巣の中への入り方を忘れてしまったかのように、とほうにくれてうろうろ飛んで、それから力つきて死んでしまうものもあります。ミツバチの子の数も、ずいぶんへりました」

と、いずれ住めなくなる可能性のあるこの森から、新しい住処を求めて旅立つ可能性さえあるエンディングです。

ぜひ、ヤービ達の暮らすマッドガイド・ウォーターに遊びに行ってみてはいかがでしょう。

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