古書店では、現役の作家が隅に追いやられていることがあります。でも、先人の作家達に負けない素敵な小説はもちろん沢山あります。

小川洋子もそんな一人。大ヒットした「博士の愛した数式」は、ラスト、マウンドに立った江夏で幕を閉じますが、何度読んでも泣けてきます。近年の幕切れベスト10に入れたい作品です。

さて、彼女が様々な動物を登場させた「いつも彼らはどこかに」(新潮社900円)は、上手い!!としか表現できない短篇集です。動物が出るからって、大切なペットとの涙の別離などという設定のお話はありません。

例えば、「愛犬ベネディクト」。犬は犬でもブロンズでできたミニチュアの犬です。殆ど外出しない少女と、ベネディクト、そして少女の兄を巡る物語です。ギャンターグラスの「ブリキの太鼓」を小道具として使ったラストは、まるでベネディクトに、命が宿っているみたいでした。

また、「帯同馬」に登場するのは、名馬ディープインパクトですが、これも、ちらっとTVに出るだけ。それ以外では、主人公の女性が通勤に使うモノレールから見える競馬場の遠景のみが馬に関連する場面です。

あるいは、「ビーバーの小枝」では、ビーバーの頭蓋骨がでてきます。小説家の女性が、自分の本を翻訳してくれた男性の死を知り、彼の家を訪ねた数日間の出来事を描いていきます。頭蓋骨はその翻訳家からのプレゼントでした。何故、そんなものを贈ったのかを、小説家は理解していきます。そして、森の何処かに住むビ−バーを想い、こう綴ります

「森のどこかでビーバーが自分の棲みかをこしらえるために、太い木と格闘している。自分に与えられたささやかな歯で、諦めることも知らないまま幹を削ってゆく。不意に、その瞬間はやって来る。一本の木が倒れる。地面の揺れる音が森の奥に響き渡る。しかし誰も褒めてくれるものはいない。ビーバーは黙々と労働を続ける。」

そして、自分の仕事に向かう・・・・鮮やかなエンディングです。

装画は、様々なジャンルで活動するD[di:]。素敵な表紙です。(右写真は彼女の作品)

レティシアの書架を見ると、文庫、ハードカバー共、小川洋子の作品が少なくなってきました。最近、読んでいないのも多くあるので、充実させていくことにします。