先日、伊丹市美術館で開催されている「鴨居玲」展に行ってきました。絵画展で、こんなに圧倒されたのは久しぶりでした。

ご存知かもしれませんが、デザイナー鴨居羊子の弟さんです。彼女のエッセイは当店でも人気ですが、玲さんの絵画については、予備知識ゼロの状態でした。

本人が、自らの初期としている37〜38歳の頃の絵画から展示は始まります。パステル画の「ドンコサックの踊り」で、空中を浮遊するかの如き踊り子の躍動感!その後のシュールリアリズム的作品は、私には面白くなく通り過ぎました。

そして片隅で語る男三人を描いた「BAR」。ストイックな構図に足が止まりました。或は、「蛾と老人」で、アコーデイオンを弾く老人の前を飛ぶ蛾を捉えた、不思議な画面に吸い込まれていきました。

71年、スペインに渡った彼は、絶頂期を迎えます。重厚な、見事に人間の身体の動きを捉えた作品が並びますが、代表作「廃兵」には、ノックアウトされました。戦争で負傷し、肢体を失くした軍人を描いた作品で、こちらを見つめる兵士から、己の悲劇を怨む声が聞こえてきそうな辛い作品なのですが、暫く佇んでいました。まるで、動くな!と作者に言われているような圧倒的な存在感です。

そして、帰国後の彼の作品群へと展示は続きますが、それは早すぎる死へのラストランの幕開けでした。画面中央の真っ白なキャンバスの前に焦燥しきった表情の鴨居自身が座り、こちらを見つめています。彼の回りには、それまで彼が描いてきた人物や、彼の愛犬チータが取り囲み、何も描けなくなった「私」という大きな作品で、画家の悲痛な声なき叫びが迫ります。「もう描けない」という事実を、渾身の力で描ききった彼は、幾度かの自殺未遂の後、85年に、57歳の若さでこの世を去ります。

滅多に図録は買わないのですが、これは購入。日々、眺めています。

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