本好きの人には、ちくま文庫は特別な存在です。他の大手出版社の文庫ファンって、滅多に聞きませんが、ちくまファンは新刊、古書問わず数多くおられます。内容も、装丁も本を出す側に愛情が詰まっているから、支持されているのでしょう。

「ちくま文庫」といえば、先ず文庫全集ですね。宮沢賢治、夏目漱石、内田百間といった文学から、つげ義春のマンガまで、充実しています。内田の全集は全24巻というボリュームで、これだけですべて読めそうです。カバーデザインは「クラフトエヴィング商会」の吉田篤弘。

文学色が強いのですが、みうらじゅんの「ムカエマの世界」「カスハガの世界」「いやげ物」(各300円)と、サブカル系も揃っています。

そしてこの文庫には、本に関するものが多いのも特徴です。書評家岡崎武志が、昭和の生活を回想した「昭和三十年の匂い」(650円)。映画専門の古書店主の喜怒哀楽を綴った中山信如「古本屋おやじ」(500円)、せどり屋さん(古書店で安く買った本を他の古書店に転売する職業)を主人公にした奇想天外な物語が展開する梶山季之「せどり男爵数奇譚」(400円)といった傑作が揃っています。

もちろんこれらの本は面白く読みましたが、私にとって最も楽しませてもらったのは、川本三郎「東京おもひで草」(400円)、「東京の空の下、今日も町歩き」(400円)、「東京つれづれ草」(300円)の三冊の”町をぶらぶら”本です。

私は生粋の京都人なので、東京山の手やら下町は、ご縁のない場所なんですが、川本さんの描き方が絶妙で、一緒に町歩きをしている気分で、ウキウキしてきます。彼が読んだ多くの本、観た映画の感想と共に、東京の、今まであまり紹介されていなかった場所へと誘われます。

町歩きの本など、もう無限大に出版されていますが、彼の本は、やはり文学と映画が色濃く絡んでくるので、好きです。個人的に信頼できる映画評論家だと思っていて、新作映画の評には目を通すようにしていますが、それ以上に、ぶらぶら歩きの方に魅かれてしまいます。

「十一月の末に房総をひとり旅した。 成東にある伊藤左千夫の生家を訪ね、次に九十九里浜の真亀海岸にある高村光太郎の『千鳥と遊ぶ智恵子」の詩碑を見に行った。その晩は、勝浦の海辺の小さな旅館に泊まり、朝 勝浦名物の朝市をながめて東京に戻った。」

どうです、豪華でも、贅沢でもない旅ですが、幸せ感一杯に見えませんか?

少しずつですが、「ちくま文庫」が揃ってきました。現在150冊ぐらいです。なんとか300冊ぐらいまで集めてみたいと思っています。