梨木香歩のエッセイ集「鳥と雲と薬草袋」(新潮社1050円)は、ぜひ、ハードカバーで持っていたい一冊です。49の土地の来歴を綴り重ねた随筆集で、その地名に惹かれた著者がフラリと訪れた様が描かれています。

「日ノ岡に、日向大神宮という神宮がある。ひゅうが、ではなく、ひむかい、と読む」

京都市内の三条通りを東に向い、山科方面に向かうと日ノ岡峠に出るのですが、これはこの土地を描いた「日ノ岡」の出だしです。無駄のない、しっかりした文章で描写されていき、一緒にフラリと日向大神宮に詣でた気分になります。最後は「蹴上(けあげ)」という地名の由来も明かされますが、義経がからんでいたとは面白いもんです。

安心して読ませてくれる文章というのは、気持ちがいい。そして、そんな本の中身をサポートするような装幀が施されていると、なおいいですね。装幀は出版社の装幀部が行っているのですが、カバーの色合いや、ページの余白まで愛情が籠っています。何より素敵なのは、挿画・装画を西淑さんが担当しているところです。表紙の渡り鳥に始まり、随所に描かれる小さなイラストが、そっと本の中身に寄り添って心憎い演出です。部屋に立てかけて眺めていたい本です。

もう一点。昭和39年発行の串田孫一「昨日の絵 今日の歌」(勁草書房1100円)は、函から本を出すとオレンジ色の表紙。この本は串田が、絵のこと、音楽のことなど彼が出会った芸術を、エッセイ風に書き綴ってあります。

「静かに針を下ろして、あらかじめその位置に置いた自分の椅子にすみやかに戻って、音の鳴り出す瞬間を待つほんの僅かの時間に、私はやはり彼らの気持ちは今充分にかよい合い、研ぎすまされ、呼吸もまた鼓動さえもぴったりと合ったその容子をちらっと想わないわけには行かない。」これは「室内楽」と題した章の一部です。

各章には、串田自身によるステキなスケッチが描かれています。

やはり、大事に、大事に本棚に置いておきたい一冊です。私は、この本に入っている、やや長めのエッセイ「天使の翼」ほど、音楽を美しく描いたものを読んだ事がありません。静謐で、澄み切った空気の中に、自分を置きたい時には最適です。