高校時代、私は映画研究部にいました。毎週、大阪にあった映画配給会社を回っては、最新映画のチラシと割引券を貰って、学内で配布していましたが、大阪中之島周辺に、海外の映画会社に交じって、日本の配給会社が二つありました。東宝東和と、日本ヘラルド映画。どちらも、ヨーロッパの匂いがする会社でした。ヨーロッパもアメリカも、遥か彼方の国だった時代、この会社を訪れる瞬間は、一足飛びにアメリカや、フランス、イタリアに行った気分になったものです。

そのヘラルド映画の作った映画チラシ、ポスターを元に、会社の全貌を捉えたビジュアルブック「日本ヘラルド映画の仕事」(PIEインターナショナル3456円)が入荷しました。ゴダールらのヌーベルバーグ一派の映画も、アラン・ドロン主演映画もこの会社が配給していました。ゴダールの「男と女のいる舗道」のポスターなんて今見ても、クールです。「さらば友よ」、「地下室のメロディー」等アラン・ドロン主演のフィルムノワールの作品がヘラルド映画配給で公開され、ガキだった私も痺れました。黒いスーツってこんな風に着るんだと、自分の顔のことは忘れて納得しました。

もちろん、アメリカや日本映画の配給も行っていて、映画の魅力を教えてくれた会社だといっても過言ではありません。チラシの宣伝文句も見事でした。

「海から来た男の潮の香り……..少年はその香りに憧れた 母はその香りに身をまかせた」

これ、三島由紀夫原作「午後の曳航」の日米合作映画のうたい文句です。この文句に惹かれて原作を読んだ日々を思いだします。

或は、「めくるめくる光の中で父を殺め…….王冠の下で母を抱いた…….白日がえぐりだした華麗なる残酷」の言葉通り、灼熱地獄を味わった「アポロンの地獄」も思いだしました。

ビジュアルにも、宣伝文句にも文学の香りが一杯でした。そして、「唇に愛の華咲きほころばせ、昼下がりの光にさえ肌を許す背徳のおまえー」なんて恥ずかしくて口にだせない言葉で大勝負して、多くの女性が大挙して映画館に殺到した「エマニュエル夫人」等々、当時の映画人のセンスとアイデアが満載の一冊です。

会社名の「ヘラルド」という言葉には「先駆者」という意味があります。その通り、この会社は時代を切り開く作品を紹介してきました。最たるものは、ベトナム戦争を丸ごと描き出した「地獄の黙示録」の日本公開でしょう。後半、錯綜する映画の哲学的展開は、一般には受けないという大方の予想を裏切って大成功に導いた、公開までの道程のドキュメントは映画ファン必読です。なおこの本の初版には、特典として、1970年東京有楽座で上映時に使用された70ミリ・プリント現物のフィルム2コマが付いています。「地獄の黙示録」フリークスなら、持っていなければいけませんぞ!