サスペンス映画の巨匠、アルフレッド・ヒッチコックの個人的ベスト3は、「北北西に進路と取れ」、「鳥」そして「サイコ」ですね。「鳥」も「サイコ」もほらほら、出るぞ〜キャー!コワイ〜的な映画なのですが、そこへゆくまでの描写で、ヒロインを付けねらうスケベ根性丸出しのカメラ演出が傑出しています。

例えば「鳥」でヒロインが、ちょいと気になる男の家をふいに訪ねるシーン。金髪がフワリフワリと揺れる後ろ姿を執拗に追いかけます。そのカメラの動きが、妙に卑猥です。「サイコ」は、もうのっけから、安っぽいホテルで情事に耽った後の二人を覗き見するようにカメラが室内をなめ回します。主演のアンソニー・パーキンスが、自分が経営するモーテルに泊ったヒロインの下着姿を壁の穴から、やはり覗き見するシーンも、これまたドキドキするいやらしさです。

スティーブン・レベロ著「アルフレッド・ヒッチコック&メイキング・オブ・サイコ」(百夜書房/初版1300円)は、世にいうサイコスリラーの原点になった「サイコ」が公開に至るまでを詳細に追っかけたノンフィクションです。そして、これはそのまま、ハリウッドの映画資本家に映画監督が、いかに知恵を駆使して、自分の映画を作り上げるかという苦闘の物語でもあります。

この映画で話題となった、風呂場で女性が刃物で惨殺されるシーンについての記述を読むと、いかにこのシーンに心血を注いでいたのかが理解できます。僅か45秒の殺人シーンですが、全世界が凍り付いたのも当然です。

このシーンを巡って、映倫がやれ乳首が見えただの、乳房が見えただのと難癖をつけて撮り直しを迫っています。しかし、当時のスタッフは「ヒッチコックは裸を見せるのではなく、裸を匂わせたがっていました。」とこの本で証言しています。結局ヒッチコックはのらりくらりの映倫の追求をかわして、そのまま使用しました。本には、風呂場のシーンも含めて多くのシーンが収録されていますので、それを見ながらお読みください。

ヒッチコックの映画は、その後の多くの作品に影響を与えていきます。「JAWS」は「鳥」の、「ローズマリーの赤ちゃん」は「サイコ」の影響下にあることは明らかです。映画だけでなく、日頃何気なく見ているTVのサスペンスものも、お手本は彼の映画です。まだ、「サイコ」未見の方は、是非見て下さい。そうすれば、あ、これ「サイコ」のパクリだ!と思わず口にでる場面に出会うはずです。