風変わりなタイトルの下に、「世界の本屋さんで考えたこと」というサブタイトルがあります。いろんな国の本屋の紹介かと思っていたら、これは本屋をめぐる超変化球的内容の一冊でした。

「日本語に生まれて」(岩波書店1300円)の著者、中村和恵は比較文学比較文化を教える大学の先生で、エッセイスト。この本は、岩波書店の月刊誌「世界」に「世界の本屋さん」として連載されたものが編集されて一冊にしたものです。しかし、欧米の大型書店、個性派書店を紹介するというのではありませんでした。

なんせ、最初に紹介されるのがドミニカ島の「ジェイズ・ブックストア」という教科書と観光案内所書を扱う本屋さんですからね。(因みに、このドミニカ島はハイチの隣国ドミニカ共和国ではなく、カリブ海にある小さな島です。)この島出身の、ジミー・リースという作家を追いかけながら、ヨーロッパ列強の植民地だった島に息づく独自の文化へと視点は向いていきます。

次に紹介されるのは、やはり現在もフランス領マルティニーク島では、1890年代に誰が書いたのかわからない官能小説「マルティニーク島サン・ピエールの乱痴気騒ぎの一夜」。「当時の植民地のキリスト教道徳観からして市場に堂々と出回るものではなく、マルティニークの一部の読者の間で『コートの下で』まわし読みされていたものであろう」というこの官能小説を巡りながら、植民地文化の中で、やはり独自の解釈で男と女を見つめてきた島の文化が紹介されていきます。

つまりこの本は、こんな素敵な本屋さんがあります的な、単純な本屋探訪記ではなく、自分たちを育んできた文化が生み出したものへの探求を目指しているのです。私も読んでみて、こちらの思い込みが見事に外れたことに驚きましたが、それ以上に言葉を通して世界を知るという、スリリングな経験をさせてもらいました。

「すみません、本屋さんはどこですか」と著者は世界の<端っこ>を歩きながら本を求め、翻って日本語について想いを巡らす。そんな彼女の旅にお付き合いした気分です。こういう濃い内容は、かなり専門的言葉を駆使して、学術的な本になってしまうのですが、著者のユーモアが巧みに配置されていて、素人でも読めるところがいいですね。例えば、コートの下で回し読みしていたという件の官能小説の事を書いた後に、こう続いています。

「でもコートって、マルティニークじゃ着ないよね。毎日、ほんとうに暑い。」

好奇心が強くて、物知りの人の話って面白い。

 

★8月9日(水)〜20日(日)「レティシア書房 夏の古本市」を店内で開催します。

個性的な28店のよりすぐりの古本が大集合です!(14日は休み)

暑い日が続きますが、お立ちよりください。