少し長いですが引用します。

「インターネットとグローバリゼーションの時代において、ようやく僕らは、もう一度普遍的なものについて考え直すことができるようになった。だから僕たちは、現代社会が要求してくる、相も変わらぬ表面的な新しさの呪縛から、そろそろ本格的に降りてしまってもいいのではないだろうか。新しいことは価値とは何の関係もない、と言ってみることで初めて観えてくることは確実にある。」

新聞のコラムや、社会情勢を批判した文章からの抜粋ではありません。早稲田大学で英文学を教えている都甲幸治の「生き延びるための世界文学」(新潮社1600円)に登場する文章です。2000年以降に出版された英語で書かれた文学を読み続け、作者の生年順に並べて論評した文学ガイドとして発表し、文学に何が出来るのかを問うた本なのです。

「文学は、見ず知らずの人々の心の中にまで降りてゆくための強力なツールだ。見た目も言語も、背景となる歴史も違う人々の心の中にさえ、僕たちは物語を通じて入って行ける。そして、同時代を生きる世界に人々が、自分たちと同じ問題に苦しんでいることに気づく」

だから、日本語で書かれていないと言う理由だけで世界の文学を敬遠するのは勿体ない。西加奈子も「世界には、私たちを救ってくれる物語がこんなにあるのだ」と推薦の言葉を寄せています。

2010年に雑誌「ニューヨーカー」が発表した、アメリカの作家ベスト20人のうち、実に9人がアメリカ以外の出身者でした。例えば、タオ・リンは生まれはアメリカですが、台湾出身の両親の母国語は中国語だし、ドミニカとアメリカを往復しながら活躍するジュノ・ディアスは英語とスペイン語で発表しています。また、ラトヴィア生まれのディヴィッド・ベズモーキズは、カナダに移民後、LAで映画を学び、「ヴィクトリア・デイ」を監督し、映画祭に出品されています。

異なった文化背景を持った作家を読むことで、複雑に変化する世界を知る手助けになるかもしれない。本の中で紹介されている南アフリカ出身のクッツェーの代表作「鉄の時代」(河出書房新社1900円)をかつて読みましたが、南アフリカにおける黒人への暴力のリアリティーに圧倒されました。

もう一点、都甲幸治の対談集「読んで、訳して、語り合う」(立東舎1100円)も再入荷しました。以前ブログで紹介したことがありますが、こちらは、いしいしんじ、岸本佐知子、堀江敏幸、柴田元幸、藤井光等々の翻訳の第一線で活躍する方々との文学夜話的一冊です。この中で、藤井光は非英語圏生まれの作家が英語で小説を発表する事が増えているが、マジョリティーに差別され虐げられている世界や、相克する異文化に苦悩する類いの作品とは全く違う作品が、多数出ていると指摘していて興味深いですね。

世界文学の入門としてお読みいただきたい2冊です。蛇足ながら、都甲幸治の翻訳ものでは、フィッツジェラルドの「ベンジャミン・バトン数奇な人生」(イーストプレス/絶版900円)がお薦めです。ブックデザインも素敵です。

 

 

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