マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」は傑作です。

アメリカ南部ミズーリ州の小さな町。その町の郊外を走るハイウェイ沿いに突如現れた3枚の真赤な看板。娘をレイプされ、焼き殺された母親の、死後7ヶ月経過してもなお、犯人を検挙できない警察と所長への抗議のメッセージが、それらの看板に書き込まれていました。

娘を殺された母には町全体が同情していたのに、この看板が出てから、微妙に変化してゆく町の住民たち。しかし、如何なる妨害にあっても抗議を辞めない母親と、警察の対立はエスカレートしていき、不気味な緊張感が満ちてきます。署内には人種差別主義者でマザコン、バイオレンスでしか自分を表現できない警察官がいて、今にもキレそうな状態です。

しかし、この映画、一触即発のバイオレンスの危機を描くだけの作品ではないのです。無能だと思われていた警察所長の隠れていた人間性、どうしようもない単細胞警察官の変化、そして強引に突っ走るだけだった母親の心の揺らぎが交差しながら、物語は進んでいきます。

とてつもなく大きな悲しみを背負わされた人間が、いかにして、ほんの僅かの希望の扉を押し開けてゆくのか、という誰の人生にも起こりうる事を見せてくれます。ノーテンキな癒しや、感動的結末なんてありません。そんなことすれば、この映画は三流のお涙頂戴作品だったでしょう。殆どノーメイクで、ジャンプスーツにバンダナという出で立ちの母親を演じる、フランシス・マクドーマンドが全身で演じる怒りのエネルギーが、いい加減な感動を許しません。

毎日新聞で映画評を書いている藤原帰一氏が、本作品を高く評価しつつも、最後を甘いと書いていましたが、その気持ちもよくわかりました。ややご都合主義的な展開かもしれませんが、明日の希望へ繋がるかもしれない可能性を示唆するエンディングがなければ、私たちは恐ろしく寒々しい気分のまま映画館を後にしなければなりません。どのような状態であれ、いかにして生き延びてゆくのかということへの答えがあるからこそ、じわりと押しよせる感動を胸に劇場から出られるのと思うのです。

 

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