磯部涼「ルポ川崎」(CYZO/古書1100円)は、今年最速で読んだノンフィクションです。

2015年、川崎市内の河川で、よってたかって暴行されて全裸にされた中学1年生の死体が発見され、犯人として未成年数名が逮捕された事件を覚えておられますか。この本は、その事件を追いかけたルポではありません。が、”危ない街”として印象づけられた川崎に生きる若者たちの姿を追いかけた作品です。

登場する若者たちは悲惨な現状を生きています。貧困と暴力、酒、クスリ、売春…..。しかし、繁栄から取り残されたディストピア川崎の現状を見よ!だけの本でもありません。

「逃げ道なんてのねぇな 日々汚れてくぜ手が ガキの頃からそうさ血の付いたカネでメシを食う」と、歌う川崎に住む青年たちで結成されたヒップホップバンドBAD HOP が、本作の方々に顔を出します。どん底時代の自分たちを歌いながらも、ヒップホップという音楽に可能性を見つけて、自分たちの未来を模索していきます。

70年代のアメリカニューヨーク州ブロンクスの、人種の坩堝の中から発生したヒップホップは、強烈なビートにのせて、彼らを取り巻く社会状況への怒りが歌われていました。暴力に明け暮れる川崎の若者たちも、最初は、そのファッションや、ノリの良さだけに目を奪われていたのですが、やがて、この音楽を知ったことで、クソだめみたいな毎日から、自分たちを救ってくれることに気づきます。

不良、落ちこぼれ、犯罪人として差別され、クズ扱いされていた彼らは、マイノリティーの自分たちに誇りを持ち、不当に差別されることへの怒りは、やがて街を練り歩くヘイトスピーチへの怒りに向かっていきます。

読者は疑問に思うかもしれません。そんなに嫌な街なら川崎を出ればいいのにと。しかし、ある若者はこう言い切ります。

「川崎はアナーキーなんですよ。地方は、大抵、閉塞感しかなくて排他的なのに対して、川崎の場合はとりあえずどんな奴でも受け入れるし、生きていける」と。

そう、彼らは、この川崎を愛しているのです。「ここの焼肉屋のおっちゃんは、すげぇいい人だったんですけど、この間、店の前で腹を切って自殺しちゃった」と平然と語る若者。人情と非人情が渾然と混じる街なのに、彼らは街を離れない。

ヤクザ、ドラッグ、犯罪が少年たちを蝕む一方、ヒップホップの強烈なリズムだけを武器に、この街を生き抜き、スラム化した街を新しく作り替えようとしている姿が描かれています。

著者は最後をこう結んでいます

「BAD HOPは光源に向かって歩み始め、後ろを無数の子どもたちがついていく。痛みから遠く離れるように」

もちろん、すべての若者が救い上がられているわけではありません。それは川崎だけではなく日本各地で起こっているはず。多くの若者が堕ちてゆき、その先は地獄。やっぱ、オリンピックなんてやってる場合じゃないっすよ…..。