内田洋子の「モンテレッジオ 小さな村の旅する本屋の物語」(方丈社/古書1400円)は、とてつもなく面白いノンフィクションです。

イタリアの辺鄙な場所にあり、これといった観光資源もない小さな村、モンテレッジオ。この村に住む男たちが、はるか昔、景気が悪くなると本を担いで、各地へ出向いたことを知った著者は、何故?という疑問に引っ張られるように、モンテレッジオへと向かいます。

夏から秋にかけて、イタリア各地では祭りが行われるが、「モンテレッジオの収穫祭は、本なのです」というこの村の出身者の言葉に、「鴨やフォカッチャの代わりに、本を肴に踊るなんて」と驚かされます。山、山、山に囲まれた村で、なんで本なんだ?読者にとっても疑問ですよね。内田が一つ一つ疑問を解いてゆく旅に同行して、その先にある本と村人たちとの深い繋がりを知っていきます。

300ページ余りある本の前半は、この村の生立ちに始まり、中世イタリアの政治まで語られます。でも、心配はいりません。写真が数ページに一枚挿入され、平易な文章で著者の驚きが語られているので、けっこうスラスラ読んでいけます。

さて、モンテレッジオの経済は、物々交換や自給自足が基本でした。春には山を越え北イタリアの荘園農地へ出稼ぎに向い、冬に村に戻ってくる、そんな生活が続いていました。ところが1816年夏、ヨーロッパをとてつもない寒波が襲い、農作物が全滅します。村人たちは出稼ぎ口を失います。その後も異常気象は続き、生活は困窮していきます。

売れるものは何でも売ろう!その時に白羽の矢が立ったのが、聖人の祈祷入りの絵札と生活暦でした。それを籠に入れて行商に出掛けたのが本との関わりの第一歩です。山で取れた栗や椎茸やら、枯れ枝を束ねたものまでかき集めて、男たちは行商に出掛けます。ここに興味深い記録があります。1800年代の行商人に、発行された通行許可証です。行商人の職業欄に「本も売る」と記載されていたのです。

そこへもう1人、本への渇望が大きい男が登場します。ナポレオン・ボナパルト。彼の登場は他民族からの独立、国家統一への民族意識を植え付けました。イタリアも例外ではありません。他国の支配から独立し統一国家として進むためには、何が必要か。それは情報です。世の中で何が起こっているのか知る、即ち本を読むことです。

モンテレッジオの男たちは本を詰め込めるだけ詰め、山を越え、各地の青空市場に露天に書店を開き、早朝から夜中まで本を売ったのです。大人たちは、子供たちにも本売りの魂を教え込みます。彼らも重い籠を背負って夜の山道を超えていきました。

当時イタリアを統治していたオーストリアは、独立を求める民衆の蜂起を恐れていました。独立を助長するような本には目をひからせ、発見次第没収していました。しかし、露天から露天へ移動し、所在不明、迅速に行動し、山中も平気で駆け抜ける本の行商人たちは、禁書を運ぶのに適任でした。治安当局は彼らを「文化の密売人」として最も恐れていました。

様々な困難を乗り越え、彼らはこの国の書店、出版文化を育てていきました。

村人たちは「本があるから生きてこられた」と言います。だから、本への感謝祭を開こう。それが「露天商賞」の始まりで、1953年最初の受賞者はヘミングウェイでした。文芸評論家も記者も出版社も加わらず、本屋だけで決定する文学賞の始まりです。我が国の「本屋大賞」みたいですね。

本を売ることの重みを、これほどじっくりと描いた本を知りません。深い感動でページを閉じました。この本を平台に積んでいる書店は、それを知っている書店として信用できると思います。

 

勝手ながらレティシア書房は、5月7日(月)〜10日(木)連休させていただきます。よろしくお願いします。

★5月15日(火)から、沖縄在住のほんまわかさんの「紅型染めと小さな絵本 ほんまわか作品展」を開催いたします。