ダニエル・デイ=ルイス主演の「ファントムスレッド」は、一言で言っちゃえば、女なんていつでもコントロールできて、自分の邪魔にならない存在だと思い、そうして生きてきた我がままな男が、女にじわりじわりと支配されてゆくという物語です。

こういうお話は、例えば「美女と野獣」で勇敢な女の子が、頑な野獣の心を変えて行ったように、あるいは、「マイ・フェア・レディ」で、実験材料のように扱われていた女性が教授の心をつかんでしまうなど、手を変え品を変えて、映画化されてきました。

ところが、一風変わった映画を撮り続けてきたポール・トーマス=アンダーソンの手にかかると、新鮮な驚きに満ちた作品に生まれ変わりました。

舞台は1950年代のロンドン。多くの大金持ちの顧客を持つ、天才的な仕立て屋レイノルズは、田舎のレストランでウェイトレスのアルマに出会います。一目惚れした彼は、デートの後、彼女を自宅へと連れて来ます。彼女の方も、もうこれは結ばれると思っていたはず。ところが、彼は、早速試作中のドレスを着せて採寸を取りはじめます。え?なに?これ??容姿が気に入っただけかい。

アルマは戸惑いながらも、彼のオフィスで住み込みで働き出します。レイノルズの、女性への対応は極めて冷淡。やれ彼女の珈琲の飲み方がどうとか、パンにバターをつける音がうるさいとか、朝から仕事の邪魔だと言ってしまう男です。

映画は、レイノルズの横に寄り添って、仕事や生活全てを仕切る姉を含めて、三人の関係を濃密に描いていきます。

レイノルズを愛するアルマは、徐々に彼の中における自分の地位をあげて、レイノルズを自分の支配下に置こうと画策していきます。どんなことがあっても自分流を通していた彼が、アルマが一人で踊りにゆくと、途端に右往左往するというように、ペースを乱されてしまいます。冷静に、自分の計画を進めるアルマが、やがて映画をリードしていきます。でも、エキセントリックな、或は暴力的なシーンなんか全くありません。終始美しい画面はそのままで、監督の手腕が冴え渡っています。

そしてラストは、レイノルズの幸せそうな表情で幕を降ろします。使い古されたはずのストーリーですが、ずば抜けた演技力を持つ魅力的な役者三人と、モダンなセンス溢れる監督の腕で、見応えのある作品に仕上がりました。お腹いっぱいになりました。