濱田研吾「増補文庫版脇役本」(ちくま文庫/古書800円)の「脇役本」という言葉に注目して下さい。映画、TVの『脇役』を紹介した本ではありません。いわゆる脇役と称される俳優が書いた「本」を「脇役本」と名付けて、その膨大なコレクションを紹介しています。主役クラスの役者さんの本って、山ほど出版されていますが、それに負けないぐらい出てることに驚きました。

そして、もう一つ「増補文庫版」という但し書き。著者の濱田研吾は、大阪出身のライターで、2005年右京書院から刊行されたこの本が、それから、十数年後、さらに集めた本を増補して文庫版として販売されました。好きな俳優、気になる役者が書いた本を、何年も何年もかけて集めてゆく!好きでなければできません。

コレクションの中には、どーでもいい内容の本もあります。しかし、役者という本職以上に、知識と見識を備えた本も沢山でています。2017年に亡くなった文学座出身の神山繁は、晩年京都嵯峨で暮らしていて、装幀、紙、製本に至るまで拘る京都の湯川書房から、自費出版で3冊の骨董エッセイを出しています(すべて非売)。小林秀雄と白州正子の薫陶を受けた神山だけに、見事な出来あがりになっていると、著者はあとがきで書いています。

文庫本には、80名近くの脇役が書いた本が紹介されています。悪役も、人情味溢れる役も、映画、TVで数限りなくこなした中村是好は盆栽を極め、「小品盆栽」を出していて、著者いわく「いい本である。これほど説得力のある道楽脇役本はなかった」と絶賛しています。

私の大好きだった二人の俳優の本も紹介されています。冷徹な悪役が上手かった内田朝雄は、二冊の宮沢賢治本を出しています。役者人生以上に文学者としてのキャリア長く、詩や童話への造詣が深く、46歳の時、賢治作品と出会い、後半生を賢治研究に費やしました。

もう1人は、やはりニヒルな悪役が見事だった成田三樹夫。読書、詩と句作を趣味とした成田は、50代半ばでこの世を去ります。没後、彼の遺稿句集「鯨の目」が発表されます(店にもありましたが、すでに売切れました)。この本は人気があり、2015年には増刷され(版元無明舎出版)、脇役本の中では、異例のロングセラーになっています。

スクリーンに、あるいは舞台に、そしてTVにちょいと出ては、消えてゆく俳優達が書いた様々な本。そこには自らの波瀾の生涯やら、本業以上にのめり込んだ趣味の世界が語られています。黒澤や小津映画でお馴染みの宮口精二は、やはり常連出演していた中村伸郎とは、文学座創成期以来の同士で共に蕎麦通。中村はエッセイストとしても知られており、「宮口精二の蕎麦さばきは、一ときわいなせで、蕎麦をつまんだ箸を二、三度上下させてたれを切り、いい音を立てて飲み込む」と書いていますが、まるで映画の一場面をみているような気になります。

脇役本の内容紹介だけでなく、大正昭和を通じて、映画や舞台に生きた役者たちの意外な素顔や、驚きのエピソードが、それぞれの「本」の中に散りばめられていて興味がつきません。