「京都でハモ、それがどないしてん」という、京都人への挑戦的フレーズの「飲み食い世界一の大阪」(ミシマ社1728円)でお馴染みの、江弘毅の新作「大阪弁ブンガク論」(ミシマ社1836円)は、ボケツッコミ満載で、笑いころげる文学論です。

生まれも育ちも岸和田の著者は、「社会的属性や世代も違う人々が普通に混じっているので、自然とコミュニケーション力が磨かれる。その際に中心となる『言語運用』は、小学校で習う国語だけでは『通用』しない。」といいます。

中学時代はおもしろいことを言うことが勝者であり、「おもろく表現する」ことが、他人を説得させる手段。国語の先生でさえ、宮沢賢治の詩を泉州弁で朗読し、英語の先生は大阪弁のイントネーションでした。

この本の中で、独特のエネルギーを持つ大阪弁を駆使した小説を取り上げて、その魅力を分析していきます。昨今、西加奈子、朝井まて、黒川博行といった関西の言葉で構成された小説が連発されています。著者は「彼らの書く登場人物の大阪弁〜関西語コミュニケーションの技法こそ、その魅力にほかならない」とし、先ず黒川博行の小説を取り上げています。

私も黒川の大ファンで、ほぼ読んでます。「よっしゃ、あのガキ、いてもたる」という、お下劣なセリフバンバンのヤクザもんや、上方漫才を聞いているような会話の刑事たちが活躍するサスペンスものなど、新刊台に出たら購入してしまいます。「後妻業」や「疫病神」が映画化されていますので、ご存知の方も多いと思います。ヤクザはヤクザの、デカはデカの、生活に相応しい言葉を巧みに使い分けているとことが、黒川作品の特質だと著者は指摘しています。言葉がリアルで、ノンフィクションであることが面白さを生むのです。その辺りを理解せずに、関西弁を使った上っ面だけの物語は、関西人から言わせてもらうと「おもんないわ、これ」になってしまいます。

直木賞受賞作品「破門」に、主人公二人の極道のこんな会話があります。

「たたでは済まんやろ。指飛ばして詫びいれんとな」「へ、おまえの指なんぞ、犬の餌にもならんわ」「そうかい、おどれの指はどうなんや。尻の穴もほじれんど」「おもろいのう、おまえ」

リズム良く、ポンポンと飛び交います。

黒川は、編集者に大阪が舞台でもいいから、東京弁の小説を書いてくれと言われた時、「なんちゅう安易な発想やと思いました。もちろん本の大半が首都圏で売れるというのは知っていましたが、大阪に住んでる人間がそんな言葉を喋るわけがない。そんな小説は書けません。」と拒否したそうです。エライ!!

その土地やそれぞれの社会集団に根付いた言葉で、そこに生きている人達が動いてこそ、物語は息づいてくるのですね。

本書は、谷崎潤一郎、町田康、山崎豊子等が登場します。どれも、これも独自の視点で論じていて、面白さ120%なのですが、これ以上書くとキリがありません。ぜひ、ご一読をお勧めします。

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