1959年1月から、その年の年末まで、須賀敦子が詩を書いていたそうです。もしかしたら、それ以外にも詩作に没頭していた時期があったのかもわかりませんが、今回、59年に書かれたものが発見されました。それをまとめたのが「須賀敦子詩集 主よ一羽の鳩のために」(河出書房/古書1550円)です。

今まで発表されなかったのは何故か。解説で池澤夏樹が「創作者はみな己の内に批評家を抱えている。時にはその批評家がとても厳格で、これは発表に価しないと言うこともあり、これ以上は書き続けるに及ばないとさえ言うことがある。」だから、これまで発表されなかったのかもしれません。

気取りのないスタイルで綴られた作品は、すっと心に入ってきます。

「あさが 私を たたきおこした 目をこする私を しかりつけて つよく 私に ほほずりした。湧き水に 手足を洗ひ すこし ぬれた わらぞうりを ひたひたとはき さあ したくはできた 六月の 草のあさの中へ 出かけよう。」

59年6月に書かれた「あさが」という詩は、爽やかな朝の匂いに満ちています。ところで、詩集のタイトルに「主よ」という言葉が入っています。須賀はカソリックに入信しています。この作品集の背後にはキリスト教があり、はっきりと主に向かって語りかけているものもあります。

池澤は、やはり解説で「信仰ある人々は常に内心で主に話しかけているのではないかと想像している。祈ることは勝手な欲望を訴えることではなく、まずもって語りかけること、答えを期待しないままに思いをつたえること、それによって結果的に自分を律することではないだろうか。」と書いています。須賀の詩にあるストイックな部分は、信仰の力によるものなのです。イタリア語で「クリスマス・イヴ」を意味する「Vigilia di Nastale」という作品では「主よ もう何日も あなたの大きな手を肩にかんじながらも わたくしは ことばのないままに ただ町をあるきまわったのです。」と主へ語りかけています。

私の様な信仰心のない者でも、須賀の言葉は深く心に染み込んできました。

須賀の詩集と一緒に、彼女の代表作「ミラノ霧の風景」、「コルシア書店の仲間たち」、「ヴェネツィアの宿」、「トリエステの坂道」から、異国で出会った彼女の大切な友人のこと、イタリアで知り合い結婚した夫ペッピーノと家族のこと、そして須賀の父と母への思い出を描いた作品を中心に17作を選んだ「須賀敦子エッセンス1 仲間たち、そして家族」(河出書房/古書1600円)も入荷しました。須賀敦子の本を読むのに、何から手をつけようかとお考えの方は、こちらのアンソロジーはいかがですか。

 

誠に勝手ながら、7月16日(月)17日(火)連休いたします。