結城信一(1916〜1984)という作家は、何かと読んでいます。静謐感のある世界が好きなんです。今回、一冊だけレアな作品集が出品されていました。「小品集 夜明けのランプ」(2500円/出品 古書柳)です。

「杉林をつつみこんだ深い夜の霧が、かすかな葉ずれの音をまじへながら、ゆるやかに流れつづけている。おもむろに流動するその濃い霧の色まで、まぼろしのやうに見えてくる。広い杉林の山肌を埋めつくした紅葉の重なりが、凍みつく寒気に凝縮してゆく音も聞こえてくる。……..私はパンを焼き、果物の缶詰をあけ、珈琲を飲み、ささやかな遅い夕食を食べたばかりで、黄色いランプの下にいる」

「夜明けのランプ」の書出しですが、澄み切った空気が支配しています。起承転結のある物語が進んでゆくわけではありません。けれど、不思議と心がおちついていきます。

こちらも貴重な本が出ています。クリストファー・ミルン著「クマのプーさんと魔法の森」(4000円初版/出品 はやね堂)です。著者自身が「はじめの方の数章で、私は、ミルン家の家庭生活(プーの本を生み出す原因となり、また逆に、プーの本から触発されることもあった家庭生活)を描こうとしました。」と書いているように、クリストファー・ロビン・ミルン自身の手による彼の幼年期時代の自伝です。プーの裏話や、父への愛憎が書かれています。中程に、幼少期のクリストファーが、ぬいぐるみのプーさんと一緒に、木に登っている写真が挿入されています。こういう二人の日々の小さな冒険がプーさんの愛すべき物語を生み出していったのでしょうね。もちろん、翻訳は石井桃子さんです。

これも絶版になっていました。小沢信男「本の立ち話」(900円/出品 とほん)です。小沢の書評、解説、随想をまとめたものです。小沢の本は「東京骨灰紀行」しか読んでいないのですが、味のある文章が好きです。チャキチャキの江戸っ子の風情もいい感じです。「敗戦から六十年、あのどさくさのさなかから生まれた赤ん坊たちが、今年そろって還暦になる。いやはやおめでとう!当事病気がちの中学生だった私も、無慮七十八歳。こんなに死なずにいるとは嘘のようだ。」とは、武井武雄「戦中氣画表」「戦後気儘画帳」についての書評の出だしです。お堅い書評集とは一味も二味もちがいます。

★古書市は19日(日)まで。月曜定休。なお最終日は18時で閉店します。

★夏休みのお知らせ  8月20日(月)〜24日(金)休業いたします。