2015年3月のブログで、「野生のクマの写真で、星野道夫を越えてゆくのは、なかなか出現しないだろうと思っていましたが、やはりさらに前に向かう者っているんですね。」と動物写真家、前川貴行を紹介しました。その時魅かれた作品について以下のように書きました。

「星野とは違うアプローチで、野生に切り込む写真家の鋭い視線に魅了されました。それは、彼の「道を拓いた一枚」と題して紹介された写真で、2002年秋、南アラスカで撮影された、サーモンを口にくわえたブラックベアーを捉えた作品です。

血の滴るサーモンを頬張るブラックベアーの表情。目には狩猟する者としての深い悲しみさえ感じます。」

2016年に発行された写真集「クマと旅する」(Keystage21/古書1900円)では、星野とは違う、前川の世界観で撮影された各地の野性のクマたちが登場します。

おとぼけ顔の子どもと鼻を膨らまして周囲の情報を収集する親クマ、川下から歩いてくる堂々たる風格のグリズリー、知床の奥地のテッパンベツ川で、遡上してくるサケやマスを待ち構えるエゾヒグマを捉えた作品などがそれです。

この作品集で、前川は、井上奈奈のイラストも組み込んで文章を書いています。

「一億五千万キロの宇宙空間を飛び越えてきた太陽光が、緻密に密集した半透明の毛をするりと通り抜け、紫外線で日焼けした真っ黒い肌に、熱とエネルギーを伝えはじめた。瞳から射し込む光は、闇夜に凍りついた魂をゆっくりと溶かし、今日生きることをうながす」

これは、極北に生きるホッキョクグマが目覚めた時の様子を描いています。この文章に添えられている井上の挿絵「風の匂いを嗅ぐシロクマ」の表情が素敵です。

作品集の最後二枚の写真。一枚は、日没とともに森へ帰る親子のグリズリー。夕陽に輝き、クマの背中の輪郭が美しい。彼らが歩く傍の湖は静寂そのものです。今日も一杯食べたね、というような親子の会話が聞こえてきそうです。もう一枚は、満月が登った夜、湖で頭だけを出しているグリズリー。ああ、いい湯だなぁ〜みたいに、一息ついた様子を捉えています。どちらもクマへの深い愛情なくしてはシャッターを押せない作品です。

 

 

 

 

 

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