辻原登を読み始めたのは、ちくま文庫から出ている彼の読書体験を綴った「熊野でプルーストを読む」(古書500円)の後書きを読んだからです。ここで、映画好きの著者は、編集者から古いアメリカ映画で「男の旅立ち」という西部劇を知ってますか、ときかれます。知らなかった著者は早速ビデオを求めて鑑賞します。

「胸がひりつくように痛くなると同時に、強烈な浄化のある映画だ。」

私が予備校通いをしていた頃のこと。大学もどうでもいいやと、だれ気味の時にフラリと入った映画館で上映していた映画が「男の旅立ち」でした。カウボーイに憧れる少年が自分のアイデンティティーを探し出す地味な作品でしたが、辻原と同じような感想を持ったことを思い出しました。これは、彼の小説を読まねば…..

「枯葉の中の青い炎」(新潮社/900円)は、いい意味で奇妙な後味を残す短篇集です。一ヶ月だけ愛人と同棲したいという夫の望みを承諾して、淡々と自分の生活を続ける妻の行動を描いた「ちょっと歪んだわたしのブローチ」。昭和54年、大阪市内の銀行で起きた三菱銀行猟銃強盗人質事件を題材にした「日付のある物語」。中学時代、野球王と言われた少年のその後を描く「野球王」。戦前、戦後のプロ野球界で活躍した白系ロシア人、スタルヒンのピンチを救う為に、南洋の呪術を使った男を描く「枯葉の中の青い話」等々、舞台も時代もてんでばらばらな作品が並んでいます。

どの物語も、読む者をどこに連れてゆくのか皆目わからない不思議さがあります。「野球王」などは、主人公はなかなか登場しません。「ナバコフの短編で好きなものをひとつといわれれば『マドモワゼルO』を挙げるだろう。」という文章で始まり、ナバコフ家にあった家庭用エレベーターの話へ飛んでいき、はてはO・ヘンリーが登場してきます。しかし、物語は、野球に天才的能力を持ちながら、不幸な生き方しかできなかった男への哀切を込めて終ります。

「枯葉の中の青い話」はファンタジーと言えばそうなのですが、スタルヒンの実人生をノンフィクション風に追いかけながら彼に深く関わる南洋育ちの相沢という男との交流が描き出されます。野球ものノンフィクションの味わいが濃厚な物語は、ラスト、急転直下ファンタジーに変身します。

これもまた小説の面白さか、作者に引っ張られて遠くへやってきて、そこに一人取り残された気分とでも言えばいいのでしょうか? 次はどこへ連れて行ってくれるのやら、楽しみです。

 

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カレンダーの犬や猫たちついては、撮影者の児玉さんのブログに上がっています。