私は日本史が大嫌いだった。漢字だらけの長ったらしい名前に、誰が誰の家来やら判別できなくなり、もういいやと、源氏も平家も家康も全部deleteしていました。最近は大河ドラマなど見るようになってから、少しずつアレルギーは無くなってきましたが……。

だからといって、歴史小説を読もうという気にはなりません。けれども、最近読んだ山本聡美「闇の日本美術」(ちくま真書/古書550円)は、日本美術が描く闇の部分を解説してあり、歴史音痴の私もスラスラ読めました。

「古い絵をなかだちとして、闇の中に沈殿していったかつての日本人の想いを掬い取ることを試みた。怖い、苦しい、恨めしい、といった負の感情が、絵画という光の中で思いがけない美しさへと結晶する。暗闇にうごめく想いは、人間の創造性にとってかけがえのない伴侶でもあった。」

と著者はあとがきに残しています。この国に存在する闇を、地獄、鬼と怪異、病、死、断罪、悲しき女という六つのカテゴリーに区分けして、それぞれを代表する絵画をピックアップし、それぞれで闇がどのように表現されているかが解説されています。

平安時代に、念仏による浄土往来を解いた「往生要集」が、鎌倉時代に「六道絵」として絵画化され、凄惨極まりない地獄絵が登場します。本書には図版も収録されていますので、じっくりとご覧下さい。或は平安末期に制作された「餓鬼草子」には、今まさに子どもを産み落とす女性のいる部屋に、一匹の巨大な餓鬼が上がり込み嬰児を狙っている様が描かれています。餓鬼は誰の眼にも見えません。だから絵画の中では妊婦も周りの女性たちに見えていません。

「本図には日常を切り裂く怖さが潜んでいる。目には見えないけれども、すぐそばにいる。このことが餓鬼の不気味さを増幅し、地獄とは異なる切迫した恐れへとつながったものであろう。」と著者は解説しています。

餓鬼の後も、土蜘蛛、天狗などの異形のものたち、病などで死んだ人々の死骸を漁る動物達など、顔をそむけたくなる場面が展開しますが、これらの絵画を見ていた人達は、何を恐れ、何に絶望し、その恐怖の向こう側にどんな光を見ようとしていたのか考えてしまいます。

驚いたのは、藤原氏嫡流である近衛家伝来の史料を伝えるにある「陽明文庫」の小野小町の姿です。やせ衰えた老女がずだ袋を懸けて、ボロボロの蓑をつけて彷徨うところが描かれています。

「花の色は移りにけりないたづらに、わが身世にふるながめせしまに」と、誰でもが知っている和歌を詠んだ小町ですが、謎多き女性で、さまざまな伝説があるようです。和歌を溺愛し、宮廷内の身分の高い男性に入れこんだ彼女が、晩年には落ちぶれて、山々を彷徨ったという、女性が虚飾に走ることを戒める意図のある作品らしいのですが、今なら、「ほっとけ、大きなお世話やん」と声がかかりそうです。

とにかく歴史嫌いの貴方にも十分楽しめます。この本を読んで、後白河上皇に興味を抱きました。いつか、この人物についてブログを書いてみたいものです。

 

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