池澤夏樹が、沖縄のボーダーインク社から出版した「沖縄への短い帰還」(古書/1600円)は、沖縄について書いたエッセイ、書評、インタビュー、講演などをまとめた一冊です。著者は、1994年から10年間沖縄に住んでいました。都会である那覇から、田舎の知念へ引越もしています。

戦争末期、軍部は時間稼ぎに沖縄を戦場にし、20万以上の民間人が犠牲になりました。戦後はアメリカによって好き放題使われていることは、皆さんご存知のことです。日本は沖縄をいいように扱ってきました。著者は、そんな現状への鋭い意見を発表しています。しかし、この本はそういう面だけでなく、様々な顔を持つ沖縄を紹介しています。

彼が移住を決心したのは、「東京という大都会が提供してくれるさまざまな魅力が色あせて見えるようになったからだった。もうあの喧噪はいらない。」でした。「感動的においしいものはなくても、まずくないものが手に入ればいい。沖縄ならばそういう食生活になりそう。」

ここから、地元の食材の話が展開されていきます。そして、当然、泡盛の話題になっていきます。「酔うために飲んで、気持ちよく喉を通り、素直な酩酊に入れる。翌日はすっきり目が覚める、という意味では、泡盛はよい酒である。」

沖縄ぐらしのエッセイの後に、沖縄についての本の書評が集めてあります。本土の出版社から出たものもありますが、沖縄の出版社の本が多いです。その中で、宮城文著「八重山生活誌」(沖縄タイムス社)に驚きました。

「一人の女性が自分が経てきた時代の生活文化すべて書き記そうと決意した。九年あまりかけて知るところを書き、不明な点は調査を重ね、ついにA5判で六百ページの大著を完成した。検索項目だけで二千を越える綿密な生活誌である」この本が完成した時、著者はなんと数え年で81歳でした。

続く第三章は、著者が受けた沖縄に関するインタビューがまとめてあります。1995年、地元雑誌の載ったインタビュー記事を少し長いですが紹介しておきます。

「地方にもっと強い力をというのは、言ってみれば『強い国」』か『幸せな国』かの選択なんだな。『強い国』が欲しいのであれば、みんな中央のことをきくというのがいい。日本の会社が軍隊をまねて人を使うのと一緒でしょ。一糸乱れず行進する兵隊が強いんですよ。だけど『幸せな国』ってのはそうじゃない。みんなしたいことして、ばらばらで、しかもなんとなくまとまっているというふうが幸せなんですよ。やっぱり日本というのは、明治以来の西洋コンプレックスがあってどうしても『弱い国』にはなりたくないんだ。力の神話にすがっている。ぼくなんか『弱いけれど幸せな国』の方がいいんだけれど………。琉球はかつて『弱いけれど幸せな国』を実現していたから、そこへ返りたいという思いも強い。」

あるべき国の姿をこの地に求めた愛情と、ここを見捨てた日本という国への辛辣な意見が交差する一冊です。