最愛の夫が交通事故で死んでします。安置所で、白い布をかけて置かれた彼の死体。ところが死体は、急に起き上がり、白い布を被ったまま歩いて安置所から抜け出し、野原を越えて、懐かしい我が家へと戻っていく。どうやら妻にも、他の人には彼の存在は見えていないらしい。え?死んだら魂は神の国に行くはずなのになんで…….?

映画「ア・ゴーストストーリー」は、そういう風に始まります。セリフを極端に減らし、ひたすら長回しの撮影スタイルと透明感のある色彩で、この男、いや幽霊を見つめていきます。誰もいない空間に、ぽつんと立っている幽霊は、絵画にような美しさともの悲しさに満ちあふれています。

家に戻ってきた妻は、心配した友人が作って置いてくれていたケーキを、ひたすら食べ続けます。あまりの悲しみに、ただただ食べ続ける姿は極めてリアルで、カメラはその姿をずーっと長回しで追い続けます。そんな彼女の側に幽霊はじっと居続けます。シーツの目のあたりにふたつ穴が開いているだけなのですが、愛しそうに哀しそうに、見ています。

37歳の監督デヴィッド・ロウリーは、幻想的なカットとリアルなカットを巧みに織り交ぜながら、この世のものでも、あの世のものでもない物語を見せてくれます。

季節は巡り、やがて妻には新しいボーイフレンドが出来て、思い出深い家を静かに出ていきます。間もなく、スペイン系の家族が引っ越してきます。思い出が消えるのがつらいのか、楽しそうな家族に嫉妬したのか、幽霊は家の中のものを滅茶苦茶に壊してしまします。幽霊が見えない人にしてみれば、もう恐怖の家ですね。その後若者たちが出入りしたりしますが、そのうち定住者がなくなり古びて荒れていく家。それでも、幽霊は留まりつづけていました。が、ある日クレーン車によって、壊され更地になり、大きなビルが出来てしまいます。無骨な鉄骨で組まれたビルに立つ幽霊の姿。もう、ここまでくると、誰か成仏させてあげて!と祈りたくなりますが、これがアメリカの映画であるところが何とも不思議です。

仏教的なようでいながらも、宗教臭さが全くないのも面白いところです。幽霊には幽霊なりの”人生”があるみたいなのです。こんなにも美しく、哀しい映画は久々です。何だかわからんことが平然と起こる映画なので、真っ新な心でご覧下さい。

★話は違いますが、店の前のツワブキの花(左)が咲きました。これは、3年前に亡くなった母の家から少し株分けして持ってきたものですが、きれいな蝶々が止まったのでシャッターを押しました。もしかしたら母も店の行く末を心配しているのか。