今年も沢山のいい本、いい映画に出会うことができました。
上半期、ノンフィクション系の刺激的な本に出会いました。将棋に人生を賭ける棋士たちの日常と、彼らの心情を追いかけた北野新太「等身の棋士」(ミシマ社)は、久々に読みごたえのある”勝負師”ドキュメントでした。沢木耕太郎ファンは必読です。
川崎の今を伝える、磯部涼「ルポ川崎」には驚かされました。一時は、環境も治安も悪く、住むに決していい町ではなかった当時、この街を愛するラッパー達が立ち上がり、様々な活動をして、住み心地のいい場所に変えてゆく姿を追いかけた一冊。
本を巡る本では、内田洋子「モンテレッジオ小さな村の旅する本屋の物語」。イタリアに強い作家だけに、イタリアの本を巡る歴史、紀行が巧く書き込まれていて、一緒に旅するような気分になりました。もう一冊、沖縄で古書店「ウララ」を始めた宇田智子の「市場のことば、本の声」は、彼女の店を訪れる様々な背景を持った人々が、時にユーモアたっぷりに、時にペーソスを交えて語られます。前作「那覇の市場で古本屋」もお薦めです。
小説では、奇妙なイメージで独特の世界を作り出す小山田浩子の「庭」が、ダントツの面白さでした。この小説を買われたお客様が一気に読み、そのお母様もハマったと聞きました。ほかには、釧路在住の桜木紫乃の短編集「水平線」が、北の大地に生きる男と女の人生の哀感が滲み出る傑作でした。今はない青函連絡船に乗って読みたくなる一冊です。
映画は、辛く悲しいアメリカの今を描いたマーティン・マクドナー作品「スリー・ビルボード」が心に残ります。繁栄から取り残されたような過疎の町で繰り広げられる復讐のドラマなのですが、登場人物のやることなすこと、ほとんどが上手くいかず、袋小路に落ち込み、抜けきれない状況を描いていきます。ラストもちぐはぐなことになってしまうのですが、人間ってこんなものだという無常感が沁みますが、なんか救われた感じがあるのも事実です。
救い、という意味では、マウゴシュカ・シュモフスカ「君はひとりじゃない」、グレタ・カーヴィグ「レディ・バード」のエンディングに漂う、ほんの僅かな希望、まだ明日も生きていける希望が忘れられません。リアルで過酷な人生に灯された希望を、ウソっぽくならずに描くのは至難の技です。明日は下半期を書きます。
★年内は12月30日(日)まで営業いたします。年始は1月8日(火)より通常営業いたします。
2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。予約受付中(1500円)レティシア書房075−212−1772