伊藤さん。私、今まで貴方を女性だと思っていました。なんせ、女の子の複雑な心理を描かせたら絶品の作家なんで。しかも、元妻は角田光代さんだったんですね…….。

1971年神戸市生まれ。小学校時代を大阪枚方市で、その後浪人時代までを三重県名張市で過ごしています。だから、関西弁がバンバン飛び交う小説が多いのです。今回、読んだ「歌姫メイの秘密」(講談社/古書700円)も、元気な関西弁で、名(メイ)という少女といとこの僕の不思議な物語です。

「それで何するねん メイ」「手のひらの上に置いてて。ほんで、目をつむって」

こういう会話で物語が始まり、で、この後どうなるのかというと、これまたとんでもない展開です。メイは、自分のおっぱいぎゅっと握り始めたのでした。そして、「あああーつー」という叫び声がしたかと思うと、僕が手に持っていたグロー球が、破裂。つまり、とんでもない大声の力のなせるワザなのでした。

「どうや?びっくりしたろ」と自慢げなメイ。

物語は奇想天外で、自由奔放なメイと彼女に引っぱり回される僕を軸に進行します。青春物語なのですが、メイの家族が問題でした。父親と母親が、N神聖教会という新興宗教の会員だったのです。キャンプでの共同生活を強いる教会のやり方に反撥したメイと母親は教会を脱退し、その時のゴタゴタで父親は行方不明になっていたのです。

「とにかく私、あんなとこに戻る気ないで。もどされるくらいやったら、警察に逃げ込む気や」

メイと僕は、中学、高校へと進学し、多感な青春時代を迎えます。まわりから一人浮いていたメイですが、その声を生かして音楽の道へと進んでいきます。一方で、自分たちを捨てた父親のことを許すことができず、僕を巻き込んで父親探しを始めます。自由奔放なメイに、知らず知らずに惚れてゆく僕。しかし、フツーの青春小説的展開になることなく、ビターで、オフビートな展開になってゆく辺りが、この作家らしいところです。

「結局こいつにとって、僕ってなんだろう。ついそういうことを考えてしまう。彼女にとってみれば、キャンプの中の世界と、こちらの世界。二つをとりもつ仲介人くらいにしか思っていないのではないだろうか。ただ働きの通訳者みたいなものか。でも、現実はキャンプなんかにはないはずだ、幸せも不幸も、こちら側にしか存在しない。」

さて、この二人の進む道がどうなってゆくのか、続きは小説をお読みください。辛い部分もあります。けれども最後のページまでたどり着いた時には、良かったね、と二人を祝福してあげたい気持ちになります。

「彼女の理想郷が音楽の世界になかったとしても、それがなんだというのだ。ほんの少し遠回りして、きっと探し当てたに決まっている。それがメイという女だ。欲しいものは見つける。見つからなければ、見つかるまで、自分で穴を掘り続ける。」

頑張れメイちゃん!

 

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