エマニエル・ゴンザレスの短編を集めた藤井光訳「ミニチュアの妻」(白水社/古書1300円)の奇妙な味わいは、なかなかです。

まずは、「操縦士、副操縦士、作家」という物語でど肝を抜かれました。

「高度二千メートルから三千メートルの間で、僕たちは街の上空を旋回し続けてきた。僕たちの計算では、もう二十年ほどになるはずだ。」

作家が乗っていた飛行機がハイジャックされたのです。普通なら、ここから緊迫したストーリーが読者を巻き込んでいくはずなのでが、なんとこの機体は上空をぐるぐる回っているだけなのです。燃料が尽きたらどうなるのって?なぜか、飛び続けているのです。じゃあ食料は?ハイジャック犯が出してきた飲み物で、栄養が取れるようなのです。犯行の目的は? それもわかりません。そして、二十年以上、乗客たちは空にいるのです。物語は乗り合わせた作家の独白で進みます。

「何週間も、いや何ヶ月も、僕は化粧室の鏡で自分の鏡を見ずに過ごすことがある。もう化粧室の中を知り尽くしているから、目を閉じたままでも生理的なことはすべて済ませられるようになっている。」

不条理な事件が混乱に陥らず、物語は幕を閉じます。いや〜、なんと表現したらいいのでしょうか。何が面白いと問われれば、この不思議な状況です。

次に登場する話がタイトルになった「ミニチュアの妻」です。

主人公は、何でも小型にしてしまう業界(?)で働く技術者です。「何があったのかズバリ言ってしまおう。どうやってか、僕は妻を本当に、本当に小さくしてしまった。」そして、気がつくと、妻はコーヒーマグの高さぐらいに縮んでいたのです。小型化業界って何よ?とクラクラしますが、夫は、妻の肉体的魅力が失われてはいないなどと、ニヤニヤしながら妻のためにドールハウスを作り始めます。しかし、やがて妻との間に争いが発生します。妻は古代の戦士よろしく戦闘開始。

「彼女は小さな槍をいくつもカーペットに突き立て、自分の野営地の周りに防御線を張っている。小さな槍の先には、一匹か二匹のクモと数匹のゴキブリの頭部が刺さっていて、夜になると小さなかがり火が見えるので、ぼくの目は釘付けになる。」

あり得ない展開に、もう笑いながら読んでしまいました。そんな感じでズラリ短編が並んでいます。小説でなければ人に伝えにくい面白さと奇想に満ちたアメリカ文学です。

★ただ今開催中の「福井さとこ絵本原画展」に伴い、2月3日(日)18時から、福井さんによるスロバキアのお話会を行います。参加ご希望の方はレティシア書房までお申し込み下さい。(075−212−1772)

★レティシア書房 恒例「女子の古本市」は2/6(水)~2/17(日)です。出店者は女子ですが、もちろんどなたでもご来店くださいませ!今回も27店程にご参加いただきます。お楽しみに!

「女子の古本市」準備のため、4日(月)5日(火)はお休みいたします。