NYブロンクス動物園は、1899年の開園以来この業界で最先端を走り続け、それまでの動物園のイメージをガラリと変えたイノベーター的存在です。動物園は単なる動物を見る場所から、生態系の保存、生息地の保全に積極的に関与する存在になるという、最近の流れを作り出した動物園の一つでもあります。

ここで、展示グラフイック部門の第一線で業務に従事しているのが本田公夫さんです。彼の仕事を追いかけたのが「動物園から未来を変える(AKISHOBO/古書1600円)です。そして本田さんと共に園内を周り、来園者の心に訴えてゆく様々の仕事ぶりを記録していったのは川端裕人。サントリーミステリー大賞を獲得した「夏のロケット」などで、ご存知の方も多い小説家です。彼にはもう一つの顔があり、動物福祉の立場から動物にとって快適な環境を実現している動物園及び水族館を評価する「市民ZOOネットワーク」の、エンリッチメント大賞の審査員でもあります。だから、この本の進行役としてはぴったりです。

20世紀後半、環境問題や、生態系の維持の問題が社会問題になってくると、動物園もそこに加担しているという批判が出てきます。狭い檻に入れて、無自覚に餌を与えるだけの場所でいいのかという主張です。本田さんは大型類人猿についてこう語ります。

「成獣を捕獲しても動物園の環境には適応させられないので、コドモを捕まえるのが常套手段でした。そのためには、先ずは、母親を殺さなければなりませんし、ゴリラのように群れで暮らす種の場合は周囲のオトナも殺します。ひどい話です。」

動物園にいるゴリラの周りには、死屍累々たる仲間の死体があったのです。長い時間をかけて、見世物的展示から彼らの生きている世界を来園者に見せて、どういう環境下で生きているのかを、様々な手段や技術で伝えてゆくという風に変化してきました。本書では、展示デザイナーたちが苦心惨憺して、動物のリアルな姿を見せてゆく様が細かく描かれていきます。写真も沢山載っていますが、私はこの動物園のHPに入り、そこを見ながら読んでいきました。

珍しい生き物を観たいという欲望を満たすだけなら、見世物小屋でも構いません。しかし、現代の動物園は、社会的批判や要求に、高い水準で応える方向へと向かっています。1993年には、ブロンクス動物園の運営母体は、それまでの「ニューヨーク動物学協会」から「野生動物保全協会」へと名前を変えました。私たちは野生動物保護のために存在するというメッセージでした。

「動物園は、野生動物の世界とその保全活動へのゲートウェイ、門口であるというのがひとつの回答だ。」と、川端は書いています。そして、その門口の先にあるもの、つまり私たちと動物たちのより良い未来を創ろうというのが、本田さんの思いでもあり、おそらく積極的に飼育に関与している人たちの思いではないでしょうか。

GW中、動物園へお出かけの方も多いと思います。この本を読んだら、きっと印象が変わるはずです。

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