前田亜紀著「カレーライスを一から作る」(ポプラ社/古書750円)が面白い!カレーライスを作る本のどこが面白いの??とお思いの方、これ単なるレシピ本ではありません。

カレーを作るなら、まずスーパーへ行って、具材を買い調理し、ご飯を炊いて盛り付けて、はい終わりというのがフツーですが、ここで作るカレーライスは、すべて一から作ってゆくのです。つまり、

1.野菜を種から育てる 2.お米を苗から作る 3.肉となる鳥をヒナから育てて、屠殺する 4.塩、スパイス、器もスプーンも一から作ってゆく

というカレーの作り方です。

提案したのは、「グレートジャーニー」で有名な冒険家の関野吉晴。で、それを実行したのがドキュメンタリー番組制作者の前田亜紀。実際に作ったのは武蔵野美術大学の学生たち。期間は1年間。4本足の動物は一般人は殺せないので、2本足の鳥なら大丈夫。なら、鶏よりダチョウが面白いと、ダチョウカレーに決定します。総勢150名ほどが参加した、奇妙なプロジェクトのスタートです。

ここで、関野はひとつ提案します。「作物をなるべく自然に近い形で育てようという提案だ。野菜や米をより早く、より大きく育てるための化学肥料や、害虫を防ぐための農薬は一切使わないやり方で作ってみよう」というものです。しかし、畑仕事もしたことのない、ましてダチョウなんて飼ったことのない学生たちです。次々とトラブルやら、難問が押し寄せてきます。ダチョウのヒナが全部死んでしまい、ここで、熱が引いたみたいに多くの学生が去っていきます。しかし、プロジェクトは続きます。

「一から作る」という関野の言葉には彼の自然への思いが込められています。

「私たちは自然のものを『ゼロから』作ることはできない。種から植物を育てることはできる。生まれた動物を大きく育てることもできる。でも、何もない『ゼロ』から、種や命を生み出すことはできない。だから、始まりは『ゼロ』ではなく『一』なのだ。自然から生み出す大事な『一』」

『一』からスタートしてゆくことで、命を見つめ、社会を見つめるのが、このプロジェクトの原点です。実際、最後まで付き合った学生たちの社会を見る目が変化してきているのです。

関野は「体を通して学んだことは、すぐに結果は出ないし、そもそも、すぐに身につく知識を教えているつもりはない。」と考えます。そして、その体験から10年ぐらい経過した時に、ああ、あれは、こういうことだったんだと分かってくれればいい、と。

「答えはすぐに出なくて良い。いつまでも待つ。それが関野ゼミなのだ。」

蛇足ながら、著者は「カレーライスを一から作る」というタイトルで劇場公開映画を作ってしまいました。

 

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