最近リリースされているミシマ社の新刊は、眠っている脳みそをハンマーで殴って、刺激を与えてくれる本が多いように思います。森田真生著「数学の贈り物」(1728円)、松村圭一郎著「うしろめたさの人類学」(1836円)そして、最近出された安田登著「すごい論語」(1944円)も、そんな一冊でした。

今から2000年以上も前に、孔子の言行を弟子たちがまとめたのが「論語」です。「子曰く」で始まるアレです。あぁ、早くも辛気くさそうな気配がしてきますが、孔子の研究者ではない三人の著名人が、著者の安田と語り合うというスタイルを取っているので読み進めることができました。その三人とは、音楽家で作家のいとうせいこう、宗教家の釈轍宗、情報学のドミニク・チェン。安田も本職は能楽師ですので、これまた論語の専門家ではありません。

で、これを読んで論語がわかったかと問われれば、理解できないことも多々ありました。しかし、なんだかもうメチャクチャ面白い。いとうせいこうとは、「『論語』に『音楽』を投げてみる」というテーマでスタートするのですが、

安田 「あの、本題からどんどん離れちゃっていいですか?」 いとう「どんどん行きましょう。僕もそういう方向に話を展開していますから」

という具合に、四方八方へと話題が飛びまくるのです。論語で音楽を意味する「樂」という言葉を巡る話から、笑いの話へと移行し、いとうが「『樂』の対象はもともと先祖だったんですね。芸事の基本は先祖を喜ばせることにあるっていうのは、僕はすごくしっくりきます。」と発言し、客席の一番前を笑わせているのはたいした事のない芸人で、大向こうの客を笑わすこと、それは延長すれば、そこにいない人、すでにこの世にいない人を喜ばせる感覚を理解しているという言葉に対して、

安田「なるほどまさに、『樂』を届かせようとするのは、いまここにいない人です。そこに届かせるところから、『樂』や芸事は始まったという事ですね」

と答えています。もう、ここら辺りは芸とは何かみたいな論議です。

三人の中で最後に登場するドミニク・チェンは、一番知名度が低い人だと思いますが、彼が言った「ヒューマン2.0」を巡ってのスリリングな対話は、脳みそガンガンとやられます。とても私には要約できませんので、本文をお読みください。

読み終わって、アレ?論語の本読んでたんだよなぁ、と再度タイトルを確認しました。頭脳明晰な人たちの会話って、これほど刺激を受けるものなのだ、ということを見せつけられた一冊でした。

著者とは、一度ミシマ社のパーティーでお会いして、少しお話をさせていただきましたが、何事にも興味津々という知性の塊のような、面白そうな方でした。そのイメージ通りの本です、これは。

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