観世会館に「黒塚」を見に行きました。安達ヶ原の鬼伝説がもとになっている曲で、以前、先代の市川猿之助で歌舞伎を観て、その美しさと幻想的な舞台、そしてラスト、ロックミュージカル並みの外連味たっぷりの演技と音楽に圧倒されたので、オリジナルを前から観たいと思っていました。

巡礼の旅に出た熊野那智の山伏とその一行は、安達ヶ原で、老婆の住む粗末な小屋に一夜の宿を借りることになります。前半は老婆が自らの苦しい身の上を嘆きながら、糸を繰ります。夜も更けてきて、老婆は「留守中、決して私の寝所を覗かないでください」と頼み、山伏たちのために薪を取りに出かけます。

しかし、この老婆に不信感を覚えた山伏に仕える下男が、密かに寝所を覗くと、そこには大量の死体が積み上げられていたのです。下男の知らせで山伏は、この老婆が鬼だったことを知り、追いかけてきた鬼女に変身した老婆と対峙することになります。山伏は珠数を擦って鬼女の怒りを静めてゆくというお話です。

静かに去ってゆく老婆が、ふと立ち止まり「寝所を見ないで」と山伏に言うところが、おお〜怖わ〜です。ハリウッドのオカルト映画の比ではありません。そして、舞台に設えられた庵を山伏が覗くと、死体の山!、といっても舞台には死体なんぞありません。あるように見せるのが能の面白さ。なんだ、これ!と騒ぐ山伏の不安に同調するように、お囃子の音が一気に緊張感を高めていきます。あの「ジョーズ」で鮫が出る時に鳴る音楽みたいです。

ついに、鬼との対決。パワー全開のお囃子のサウンドと、一糸乱れぬ謡いが、興奮度をアップさせます。追い詰めた鬼が逆襲に転じた時、山伏はなんとマイケル・ジャクソンばりにムーン・ウォーカーで、後ろ向きに舞台を駆け抜けます。さらに、山伏たちが体をくねらせて鬼に立ちむかう場面、えっ?こんなダンサブルな場面って、能にあったの?と驚ろきました。もう、ストリートダンスそこのけの迫力でした。こんなかっこいい音楽と舞台を、室町時代に作っていたんですね。

能にしろ、歌舞伎にしろ、どうしようもなく眠たくなる場面があります。その時は、迷わず寝ることです。きっと、起きろ!ここやで!と舞台が呼んでくれます。そこだけ観てればいいのです。その内に、だんだん起きている時間が長くなってくるものです。この舞台でも、老婆の身の上が語られる場面は寝てしまいました。

 

♫トーク&ライブのお知らせ  

7月13日(土)18時30分より 『澤口たまみ(語り)石澤由男(ベース)ライブ』

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再びやってきます。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。ベーシスト石澤由男が伴奏を添えます。 朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時受付開始  18時30分より (2000円)ご予約ください。

                     075−212−1772(レティシア書房)