以前ブログで紹介した「長いお別れ」に続いて、中島京子の「夢見る帝国図書館」(文藝春秋/古書1350円)のご紹介です。長編小説を読んだ満足感100%の出来上がりでした。安心して読める作家の一人ではないかと思います。

小説家を目指すライターの”私”が、「短い白い髪をして、奇天烈な装いをしていた。」貴和子さんと出会ったところから、物語が始まります。貴和子さんは本が好きで、図書館が大好きな老女です。”私”は誘われるままに、「路地の奥のそこだけが江戸時代を背負っているみたいに古かった」小さな部屋に行き、四畳半の狭い部屋に樋口一葉全集があるのを目撃します。そして、彼女が小説を書いて欲しいと頼んでくるのですが、それはとても奇妙な設定の物語なのです。こんな会話が続きます。

「上野図書館が主人公みたいなイメージなの」「図書館が主人公?」「そう、図書館が語る、みたいな」「図書館の一人称っていうこと? 我輩は図書館である、みたいな?」

そこから、樋口一葉に恋ゴゴロを持ち、宮沢賢治と唯一の友の友情を見守り、関東大震災を耐え抜き、戦時中隣接する動物園の猛獣処分で殺されてゆく動物たちの嘆きに悲しみ、敗戦後に「帝国」図書館の役目を終えるまでの”図書館の人生 “が脈々と語られていくのです。図書館の眼差しが、時に優しく時に切ないところに涙してしまいます。

同時に”私”は、貴和子さんの戦前戦後の苦難の歴史と人生を知り、彼女が纏っている謎を解明してゆく物語が進行していきます。ひとりの女性の人生と、時代に翻弄されながらも本を守り続けた図書館の姿が、後半見事にシンクロしていく、巧みな構成です。

日本国憲法草案のため、アメリカから派遣された女性ベアテは、この図書館で資料を集めながら考えます。

「わたしが憲法草案を書くなら、と、ベアテは考えた。この国の女は男とまったく平等だと書く。神様がわたしのようなちっぽけな人間に、こんな大きな仕事をさせようとしているなら、間違えちゃいけない。わたしはこのチャンスを、彼女たちのために使わなきゃいけない」と、本をしっかり抱きかかえて、立ち去ります。その姿を図書館は優しく見つめていました。

晩年の喜和子さんが家を捨て、自ら選んだ道で幸せな日々を送られたことに”私”も、読者もホッとします。小説の完成を待たずに喜和子さんはこの世を去ります。最後の散骨シーンと、帝国の看板を下ろして役目を終えた図書館の姿がクロスして、大きな歴史を描いた物語は終わりを告げます。

「真理がわれらを自由にする」という最後の言葉は、心の底からジーンときて鮮やかな終わり方でした。

 

♫トーク&ライブのお知らせ  

7月13日(土)18時30分より 『澤口たまみ(語り)石澤由男(ベース)ライブ』

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再び
やってきます。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。
ベーシスト石澤由男が伴奏を添えま

す。 朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時受付開始  18時30分より (2000円)ご予約ください。