コルム・トビーンの「ブルックリン」(白水社/1800円)を読んで、長編小説の醍醐味を堪能しました。海外文学の長編を久々に読みましたが、毎日ページを開けるのが楽しみでした。

舞台は、アイルランドの片田舎の町エニスコーシとニューヨークのブルクッリンです。1950年代初頭、小さな町で、母と姉と暮らすアイリーシュは、未来の見えてこないこの地を離れて、NYブルックリンへと渡ります。アイリッシュコミュニティーの下宿屋で、小うるさい下宿屋のおかみと、下宿人の若い娘たちと暮らしながら、デパートに勤めます。仕事に慣れてきた彼女は、簿記の資格を取るため夜学に通い始め、私生活ではイタリア系移民のトニーと恋に落ち、幸せな時間を過ごします。しかし突然、最愛の姉が亡くなり故郷へ帰国する羽目になりました。その故郷で………..。

物語はこんな感じです。300数十ページの長編ですが、アイルランドとNYブルックリンの時代の雰囲気を細かく描いていて、頭の中に映画館で見るような映像が最後まで浮かんでくるのです。そしてアイリーシュの生活に顔を出してくる人たちの心理描写が細やかで、彼らの会話を十分に楽しむことができます。

「アイリーシュはこの街の朝の空気と静けさが気に入った。ほとんど縁がなく、交差点に商店があるほかは軒並み住宅で、それも一軒の家に三、四室の貸し部屋を持つ建物が並んでいる。」

と慣れてきたブルックリンの町並みを歩いて、勤務先のバルトッチ百貨店に向かうのです。「ブルックリンは毎日変化しています」とは百貨店の上司の言葉ですが、多くの国から人々が流れ込むこの街で、彼女は成長し、大人の美しさを身につけていきます。そして、恋人トニーとの出会い。ダンスホール、クラブ等々、めくるめく日々の描写も冴え渡ります。

しかし、亡くなった姉の元へ一時帰郷した時から、ドラマは意外な方へと進んでいきます。え!そうなの?そんなんあり?この最終章あたりで、私はやってはいけないことをしてしまいました。結末を先に読んでしまったのです。そうしないと、居心地が悪いというか、安心できないというか……。で、納得して元に戻って読み直しました。それぐらい、面白いとしか言いようのない小説です。最後のアイリーシュの微笑みが、心の奥に残ります。

これ映画化されていて、映画館で観るチャンスを逃してしまいました。残念!