この本のタイトルを見て、「在野研究」って何?という方もおられるかもしれません。編著者の荒木優太は、「在野研究とは、ごく簡単に、大学に所属をもたない学問研究のことを指している。」と定義しています。

「在野研究ビギナーズ」(明石書店/古書1300円)は、現役で活躍中の15人の在野研究者による、研究生活の実践と方法を、各々の体験の中で論じてもらったものを編集してあります。研究生活の実践なんて、読んでおもろいか?と疑問視される向きもあろうかと思いますが、まぁ、ここはもう少しお付き合いください。

「在野研究には明日がない、明日は、労働や育児や家事や病院通いといったもろもろのスケジュールで埋め尽くされているから。生活のルーティンや雑事のせわしなさが優雅な(と想像される)研究時間をことごとく奪う。未来の空き時間が与えられずに現在の係累によって占領されてしまう。」

そんな状態なのに、なんで研究するのか?さらに、大学図書館へのアクセス制限、自分一人でやっているので他の研究者との交流が少ないこと、そして研究成果の発表の場の確保の難しさ、もう荊の道へ一直線です。

でも、皆さん好きなんですね、自分のやっていることが。情報学が専門の工藤郁子さんは、「『趣味で研究をやってます』と言うと、たいがい引かれる。勤勉ですねと言葉を濁されたり、研究はお遊びじゃないとたしなめられたりする。でも、なぜ論文を書くのかと聞かれたら、趣味としか答えられない」と言い切っています。

この本に登場する多くの在野研究者のライフスタイルを読んでいると、なんだか、本好き、音楽好き、アート好きな人なら、どっか似ていると感じるはずだと思えます。古本市を回り、本の山からお目当てを探し出し、熟読し、さらにそこから読書の幅を広げ、作家のことを調べ、それが現役の作家ならトークショーに出かけてゆく、という貴方もまた似たり寄ったりではないでしょうか。

お客樣で、ジャズ歌手のビリー・ホリディのレコードを集めている方がいます。レコードから始まり、シングル、果ては私家版まで集め、コレクターと録音データを巡って意見を交わす日々。これを在野研究者ではないとは言えないように思います。

妖怪研究家の朝里樹は、「在野研究とは何かと問われれば、私にとっては自分の好きなものたちに近づいて行くための一本の道だ。」と断言しています。

「オタク」=「研究者」とは言い切れませんが、そのあやふやな境界線上で、自分の気に入ったものを追い求める人たちの熱意と笑いに満ちた証言を読んでいると、もっともっと本を読もう、映画を観よう、音楽を聴こう、という気分になってきます。