2014年、板橋区立美術館で「迷宮の美術家たち展」が開かれました。誰の?というと種村季弘なのです。種村って、作家で、ドイツ文学者の?

今回ご紹介するのは、本個展の公式図録「種村季弘の眼 迷宮の美術家たち」(平凡社/古書950円)です。本書の編集に携わった柿沼裕朋によれば、「『タネムラスエヒロとは何ものか』と尋ねられ、生前本人が使っていた肩書であるドイツ文学者と答えたならば、彼を知る人は皆、違和感を覚えるのではないだろうか。なぜなら、生涯取り組んだテーマの広さと、著作の質と膨大な量ゆえに」。「怪人」とも言われていると紹介しています。

確かに古今東西の異端的な、或いは暗黒的な文化や芸術に関する膨大な知識に基づいた評論、ホフマンやマゾッホなどドイツ文学の翻訳、内外の幻想小説や美術、映画、演劇等アートの評論など多方面で活躍しました。また、錬金術や魔術研究でも世間に知られています。さらには、吸血鬼や怪物、奇人など、歴史上のホントかウソか判別できない事象や人物の紹介もしてきました。

そんな謎の人物の個展って興味湧きますね。大体、表紙(写真上)からして奇々怪々です。ご本人が、鰯の頭と鶏の足を組み合わせた帽子を被る写真です。東大在学時代は美術史学科で、美術に関する執筆も多く残しています。

柿沼は、彼の美術作品への嗜好を「抽象よりも形のはっきりとした硬質な画面とリアリズム。べとべとした情念よりも恐怖や不安を笑いに転化したような作品である。」と明言しています。本書は、彼が愛した美術家たちの作品を、彼の著書に繰り返し登場するキーワードによって章分けして、この怪人の世界へと導いていきます。

 

ハンス・ベルメール、四谷シモン、金子国義、宇野亜喜良、ホルスト・ヤンセン、マックス・エルンスト等々、種村の美的センスに貫かれた作品が登場します。多彩な顔を持つこの作家の精神を、様々な美術作品を通して垣間見ることができるユニークな書物です。

本書と共に、「箱の中の見知らぬ国」(青土社/古書1400円)、「黒い錬金術」(白水社/1900円)、「謎のカスパール・ハウザー」(河出書房新社/1100円)も入荷しました。まだお持ちでない方はお早めにどうぞ。