奈良県の山奥、東吉野村の私設図書館「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」を開設した青木真兵・海青子(みあこ)さん夫婦が、ここに関わった人々と対談した「彼岸の図書館」(夕書房/新刊2200円)を読んでいると、もう付箋だらけになりました。それだけ、いろんな意味で面白い本でした。

都会で働いていた二人が、この村に移住するきっかけになったのは東日本大震災でした。この震災と原発報道を「ぼくたちの周りにあったいびつな状況を露わにする出来事だったと感じています。街での生活がどんどんバーチャルに思えてくるのと並行して、ぼくら夫婦の体調も悪化していきました。」

そんな状況から脱出するために地方移住を考えます。そして、地方に移住するなら、海青子さんが司書として働いていた「図書館」を自宅に作りたいという思うようになった時、東吉野村の一軒の家と出会いました。

「この本は、兵庫県の街での生活で体調を崩し、ほうほうの体で東吉野村へ逃げ込んだぼくらが、家を開いて図書館を作ったことで元気になっていった『リカバリーの物語』です。」と真兵さんは書いています。

本書では、様々な形で図書館に関わった人やご夫婦と親交を結んだ人たちが登場して、住むこと、働くこと、食べること、知ることなどについて語り合います。付箋をつけたところ全部書いたら、恐ろしく長いブログになってしまいそうです。そんな彼らの対話を読んでいて浮かび上がってくるのは、この国のいびつでねじれた姿です。でも、社会批判の本でありませんし、移住して自然豊かな環境で、オーガニックな暮らしをする夢を叶えました、みたいなメディア好みの内容でもありません。

こんな時代だからこそ、もういっぺん生きることの原点を見直しませんかということを語りあった記録をまとめたものなのです。

「ぼくが窮屈と感じる社会は『一つのものさしで測る』ことをベースに設計されています。人間を『人材』と呼んだりする社会です。そんなもん社会じゃねえ。ぼくの考える『本当の社会』は、生命力が単位です。生命力とは、ミルの言う『自分のうちにある最高で最良の部分』のこと。だから人それぞれみな違う。

『ルチャ・リブロ』は『生命が高まる場所』です。『どうすれば、自分の内にある最高で最良の部分が十分に活動でき、その成長と開花が可能になるだろうか』と自分に問いかける場こそが、ルチャ・リブロです。花や草木、犬や猫、虫や鳥。生命力を持った存在である人間も、彼らと本質的には同じです。この自覚が日々の生活の中で高まっているからこそ、ぼくは心身ともに健康になったのかもしれません。」

少し長い文章を引用してしまいましたが、青木さん夫婦や、ここに登場する人たちの言葉に一度耳を傾けてみてください。きっと、あなたの本も付箋だらけになること間違いなしです。

本を出版したのは女性一人でやっている「夕書房」です。当店でも二度朗読会をした澤口たまみさんの著書「宮沢賢治愛のうた」の版元でもあります。納得できる本を読者に届けくれるこの版元を、当店は応援しています。