今年読んだ本の中でも極めて刺激的な一冊をご紹介します。松田行正著「独裁者のデザイン」(平凡社/古書2300円)です。

「デザインに罪はない。ただし『過剰』な『繰り返し』には要注意」と本の帯にあります。過去の独裁者、ヒトラー、ムッソリーニ、スターリンそして毛沢東が民衆を洗脳するためにポスターデザイン、建築デザイン、写真などの媒体をいかに巧みに駆使したのかを、多くの図版や写真と共に解読してゆきます。

「『プロパガンダ』と称される、宣伝を使った戦略の一種、戦法に乗せられることである。本書で取り上げる『デザイン』は、その本質を隠して心地よいものにするためのイメージ作りに使われている。」

独裁者たちがいかに様々のプロパガンダを使って大衆を踊らせ、戦地へ送り、他民族への憎悪と差別意識を植え付けていったのかを詳細に論じています。本書では、独裁者の民衆への視線に注目して、六つのスタイルに分けてあります。

「近現代においてはじめて視線の強さが効果を発揮したのはリクルート、つまり新兵募集のポスター」だったみたいです。こちらを向いて、兵士になって欲しいという視線のお陰で、英米で多くの新兵を獲得しました。その後、あの手この手でポスターを制作し、民衆の心を掴んでいきます。街角に掲示されているポスターの威力。よくもまぁ、ここまで集めたものです。

ヒトラーは、呪眼と呼ばれる視線で人民を睥睨し、彼らに突き刺ささるように指さしを駆使しました。ムッソリーニもしかり。人差し指を立てて、断言口調で話していたそうです。そう言えば、トランプさんも人差し指を立てて話しています……。

第4章「遠望する視線」に、ローアングルで撮影された遠くを見つめるポーズをレイアウトしたポスターの話が出てきます。このスタイルは、政党ポスター、選挙ポスターのよくあるスタイルですが、全体主義国家の独裁者を皆が崇拝することに貢献してきた歴史があったと書かれています。

選挙ポスターで候補者が見つめるのは、理想に輝く未来像です。だから、「選挙候補者は、真摯に未来を語らなければならない。それが票に繋がる。」独裁者も同じです。

「未来を語ることによって、より良き独裁国家という幻想を与えられる。また、未来を語る預言者としてのイメージも付加される。そして『親しみ』も。」と著者は分析しています。北朝鮮の党首を讃えるポスターなんて、その見本ですね。

遠くを見つめるという構図は、プロパガンダマガジンの定番で、戦争中に日本で発行されていた「NIPPONN 」「FRONT」といった対外向け雑誌もこのパターンで製作されていました。収録されている雑誌の表紙は、今見ても優れたものです。

過去の独裁者たちを、こういう視点で見つめた本って、私は見たことがありませんでした。著者がグラフィック・デザイナーだからこそ、出来た本です。