今年の1月13日だったと思いますが、新聞に坪内祐三の死亡記事が載っていました、1958年生まれですから61歳。心不全だったそうです。

雑誌「東京人」の編集者を経て、評論家の道を歩みだし、多くの文芸評論やエッセイを書き残しました。彼の最初の本「ストリートワイズ」(1977年晶文社)を読んだ時の衝撃は、忘れられません。本を愛し、東京の街を愛し、方々をさまよい歩きながら、新しい物の見方を教えてくれた一冊でした。その2年後、「靖国」を発表。一体、靖国神社のある靖国という場所は、建立当初はどのような場所だったのだろうかという疑問に対して、膨大な史料を駆使して解明してゆくスリリングな一冊でした。首相の靖国参拝という政治的イデオロギーばかりが目立つこの神社をリアルな場として語り尽くした傑作でした。

その後、本が出るたびに読みました。とりわけ古書に関するものと、「酒日記」、「三茶日記」、「酒中日記」と続く日記ものは、愛読していました。読んだ中ではこの三冊は日記もののベスト3に入るものと思っています。

彼が「東京人」をやめた頃、「ストリートワイズ」でこんな風に語っています。「文化人類学者の山口昌男さんがのちに『「敗者」の精神史』に結実する明治大正の面白本や雑誌を古書展で探しはじめたころである。(中略)山口さんに誘われて私は毎週末のように古書展に通いはじめた。そして私もまた明治大正の面白本や雑誌、人物にズブズブに引かれていった」

そんな場所で得た古本の世界、知識を簡潔な文章で語ったのが「古本的」(毎日新聞社/古書1250円)です。

「箱入りの、あまりにも素っ気ない装丁の背表紙に『随筆集小鹿物語」とだけある。著者名はない。数週間前に出かけた神田の古書展でのことだ。箱から本を取り出し、まず、値段をチェックした。八百円以上なら、そのまま箱に戻していただろう。(略) で、三百円だった。そして、はじめて目次を開いて、驚いた」

という古本市巡りをする人なら経験したことのあるゾワゾワした感じで、古本の世界へと誘ってくれます。

また、「四百字十一枚」(みすず書房/古書1300円)の「10年前に私は、タヌキの置き物の飾ってある定食屋で岡崎武志と昼食を共にした」という長いタイトルのエッセイでは、書評家岡崎武志との出会いだけでなく、銀閣寺の古書店「善行堂」の山本店主まで登場してきて、面白い古本談義を繰り広げます。

レティシア書房を開店するために、多くの書評家や文芸評論家の本を読みましたが、本の知識だけでなく、本の見方、選び方など多くのことを教えてくれたのは坪内だけでした。まだまだ教えていただきたいことがあったのに、残念です。ご冥福をお祈りします。

 

 

★2/5(水)〜2/16(日) 恒例となりました女性店主による『冬の古本市』を開催します。今年も神戸・大阪・岐阜・東京・御殿場・京都などの女性店主の選書です。ぜひお立ち寄りください

 

 

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