以前に、「ドライブイン探訪」(筑摩書房売切れ)という本を紹介しましたが、その著者橋本倫史の「市場界隈」(本の雑誌社/古書1300円)を読みました。

那覇にある「那覇市第一牧志公設市場」で働く人々をルポした本です。日本一小さい本屋として有名になった古書店「ウララ」もここにあります。戦後、那覇市は米軍管理の土地を借地契約し、1951年に公設市場が発足し、200店舗のお店が営業していました。近隣への大型店舗の進出等で、市場も店舗数は減少傾向にありますが、沖縄県の珍しい食材が安く購入できることや、食堂で家庭料理が安く味わえることからガイドブック等に掲載され、観光客が多く訪れるようになり、観光スポットとして脚光を浴びています。

著者は、この市場に店を構えている人々を訪ねて、店の歴史やそこで働くようになった経緯等を聞いていきます。正に人に歴史あり。

「私が小さい頃は、今日は何を食べる、明日は何を食べるという時代ですよ。ごはんを食べていくためには、小さいうちから働かないといけない。」とは、中国語も操る長嶺鮮魚の名物女将、長嶺次江さんです。本当最南端の糸満市から、戦後この市場に良い仕事を求めてやってきます。

「その当時は働いているのはほとんど戦争未亡人のおばちゃん達でした。皆さん私よりも年上だったけど、優しくしてくれて。沖縄の商売は会話が大事だから、ユーモアの精神でやる。」と話されていますが、「沖縄の商売は会話が大事だ」は、ここに登場する店主たちの多くがおっしゃっています。そして、誰もがよく働く。予算に縛られたり、売上に追いかけられているのではなく、生きることがそのまま働くことに結びついているのです。

大衆食堂ミルクで、75歳になった今も働く宮城初江さんは、こう言います。

「将来のことはね、何も考えませんよ。とにかく頑張って働くだけ。他に何があるの。『いらっしゃいませ』、『ありがとうございました』、これぐらいよ。別に儲けようと思ってませんよ。色々必要な支払いを済ませて、ご飯を食べることができれば十分よ」

多分、こういう人たちがいっぱいの市場だからこそ、その幸せをちょこっと分けて欲しくて、多くの人たちが訪れるのでしょうね。確かに、ここに登場するおっちゃんやおばちゃんの顔を見ていると、良い気分になってきます。

なお、この市場は2019年6月で営業を終了、建て替え工事に入るのだそうです。だから、ここに収録されている市場の写真は、もはや過去のもになってしまいました。貴重です!

 

 

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