在日三世の小説家、李龍徳(イ・ヨンドク)の長編「あなたが私を竹槍で突き殺す前に」(河出書房新社/古書1600円)は、いいよと、誰にでもお薦めはできません。複雑な構成ではあるものの、決して難しい文章があるわけではないのですが、読みづらい部分があります。時間もかかりました。でも、あえて言えば、こういう文体で、こういう世界設定で、日本の姿を極めて象徴的に描き切ったのは稀有なことです。最初は、読むことを放り投げようかという誘惑に駆られたのですが、不思議なことに後半に進むに従って、その危険な香りに麻痺させられていきました。

「特別永住者の制度は廃止された。外国人への生活保護が明確に違法になった。公文書での通名仕様は禁止となった。ヘイトスピーチ解消法もまた廃され、高等学校の教科書からも『従軍慰安婦』や『強制連行』や『関東大震災朝鮮人虐殺事件』などの記述が消えた。」

そんな近未来(いや、現実か?)の日本が舞台です。「韓国に悪感情を持つ日本国民は九割に近い」時代を生き抜くのが在日三世の柏木太一です。彼が、様々な過去を持つ男たちを集めて反日武装闘争に突入する、と書いてしまうと、新手のアクションサスペンス小説かと思われるかもしれませんが、そうではありません。

「日本の現状だって、飼いならされて気づいてないかもしれないけれど、いや、かなりのディストピアだから。何も明確なジェノサイドや強制収用所の再来だけがディストピアじゃない。ディストピアは今だ。」

これは、ディストピアな国家、日本の底辺を這いずり回る若者たちの青春群像劇なのです。彼らが実行する反撃は、決してカタルシスに満ちたものでもなく、自らの命を削ってゆくものでしかありません。

「世界とは大衆のことであり、世界の意思とは大衆の意思のことだ。 最終の敵はいつだって大衆。そしてそれには絶対に勝てない」

その勝てない大衆にぶつかってゆく最後の手段に、唖然とするしかありませんでした。370ページの大作の最後の文章まで、頭の中を引っ搔き回され、混乱し不安になる読書。でも、私はこれを肯定し、この迷走感を楽しみました。読んでよかった、と思います。

この本のことを、ときわ書房の書店員の方が WEB本の雑誌の「横丁カフェ」で見事な分析と評論をされています。その中で、こう書かれています。

「優れた文学、ノンフィクション、その他書物は、読む者を不安にさせ、深い絶望に落とすこともある。しかし私たちには、その絶望を直視できるかどうかが問われている。絶望を知らずに希望を持つことは出来ない。表面上のわかりやすさだけでは伝わらない怒り、悲しみ、葛藤、絶望を知ることは、本の持つ大きな役割の一つではないかと思っている。それを知ってこそ人は喜びと希望の存在を理解出来るのではないか。

読書とは、無関心から私たちを引き戻す行為の一つではないかと、今まさに痛感している。
李龍徳『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』。これはまさに2020年の文学である。」

 

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