新刊書店員時代の最後の年だったと思います。入荷してきた絵本を何気なく手に取り読み出して、最後のページで、思わず泣いてしまいました。その現場を児童書担当の女性スタッフに見られてしまいました。「店長って絵本で泣くような人じゃないのに、何か家庭であったみたい」「会社でいじめられたのかも」とか、休憩室で噂になったらしいです。

その絵本が、越智典子(文)・沢田としき(絵)による「ピリカ、おかあさんへの旅」(福音館書店/古書1100円)。越智典子は、東京大学理学部生物学科を卒業後、絵本作家になりました。沢田としきは、1996年「アフリカの音」で日本絵本賞を受賞した絵本作家です。

主人公のピリカは、シャケです。大きくなって外海にいます。ある日「だれかのよぶ声がして、ピリカは目をさまし、空を見上げました」でも誰もいません。しかし、ピリカはお母さんの声を聞いた気がしました。

「ほかのさけたちも。空を見上げるようになりました。『誰かがぼくらをよんでいるよ』むれは、呼び声にこたえて泳ぎだしました」

シャケたちは、故郷の川を目指して泳ぎ始めたのです。広大な海を泳ぎきり、懐かしい匂いのする川へと戻ってきました。

「なつかしい匂いのする水は、あとからあとから流れてきます。それは、しょっぱくない、真水でした。ピリカは急に体が重たくなって、くるしくて、パシッと自らはねました。」

「お母さんが近くにいる!」河口付近で跳ね上がるピリカの姿。やがて、ピリカは自分の体に多くのタマゴを宿していることを知ります。産卵までの時間が瑞々しいタッチの絵で描かれていきます。産卵を終えたピリカは、静かに自分の生を終えました。体を横たえたピリカの横には、おかあさん、そのおかあさん、さらにその前のおかあさんもいるのです。『「おかえり……おかえり…….ピリカは光につつまれました」』

最後のページにはこう書かれています

「やがてピリカの体は、もう一つの旅に出るでしょう。キタキツネにたべられて、キタキツネになったなら、春には子ギツネをうむかもしれません。

オジロワシにつつかれて、オジロワシになったら、空を飛ぶかもしれません。

それでもいつかは、土になり、木になり、森になり、ゆたかな川の水になるでしょう。」

一匹のシャケの一生を描きながら、命の循環をわかりやすく描いた素敵な絵本です。