ミュージシャンの原マスミが、イラストや絵本の世界に進出してきたのは、いつからだっただろうか。気がついたら吉本ばなな作品のフロントカバーの作品を描いていました。落語家の柳家三三著「王子のきつね」(あかね書房/古書1200円)は、彼女の大胆にデフォルメされた絵が、内容にぴったりはまった面白い絵本です。

原マスミの絵が楽しい、石津ちひろ作「南の島で」(偕成社/古書1500円)をご紹介します。南の島に行ってみたくなる絵本です。

主人公の少年ワタル君は、ある夏休み、お父さんの妹ももさんが住んでいる南の島でホームスティすることになり、初めて一人で飛行機に乗りました。ちょっと引っ込み思案で、ものおじする性格の少年は、ももさんに会ってもうつむき加減です。

「島についてその日のうちに、ももさんは、僕を浜辺につれていってくれた。ぜんぜんおよげなかったぼくは、海にいっても、あんまりうれしくなかった。」

おそるおそるみずに足を入れるワタル君。

ももさん曰く「きょうは、ここの海に<はじめまして>のあいさつができれば、それで十分」

それから毎日、ももさんと海に出かけ、流れてゆく雲や、鳥をみたりして過ごします。ベジタリアンのももさんの美味しいごはんを食べ、少しづつ島の暮らしに慣れてゆきます。

ある日、海からの帰り道、土砂降りの雨に出会います。

「ももさんは、たちどまって空をあおいでいた。そしてそのまま、両手をひろげてくるくる回り出した。ももさんが『ワタルくんもほら!』とさけぶ。

おもいきって、ぼくもおなじようにやってみたら、からだのおくから、自然にわらいがこみあげてきた。」

ふたりが天をあおいで、雨を喜んでいるシーンの絵に、こちらも雨の中に飛び出したくなります。

島で過ごす最後の日。ももさんが「耳を水のなかにつけているとね、ふとしたひょうしに、”ぽこぽこ “という音が聞こえてくるの」と言うので、ワタル君がおもいきって浮き輪を外すと体が浮きました。

「海のなかにしずんでしまうのがこわい、という気もちは、いつのまにかきえていた。」

そして、彼の耳元にも”ぽこぽこ “という音が聞こえてきます。

「青くすみきった空しかみえない。ひろい空をひとりじめしているよろこびと、世界のはてに、おきざりにされてしまったようなさびしさ。ぼくは、そのままずっと海にねころんで、耳の奥にひびいてくる、そのあたたかな音をきいていた。」

自然体で心豊かに生きる人間に出会った少年の夏の思い出は宝物です。絵本は、「それからしばらくして、ももさんは、その島をでた。島でであった人といっしょに、外国でくらすことになったんだ」ということを伝えて終わります。

最後のページには、大きくなって父親になったワタルくんが、自分の家族と一緒に海に浮かんでいます。彼らの満ち足りた幸福をおすそ分けしてもらいましょう。